研究課題/領域番号 |
22H02037
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
迫田 憲治 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80346767)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 円二色性 / キラリティ / CD測定 |
研究実績の概要 |
分子や分子集合体がもつキラリティを評価する際によく用いられる測定手法として,左右円偏光に対する吸収差,すなわち円二色性(CD)測定が挙げられる.通常,CDの信号強度は,吸収強度に対して1/100から1/1000程度であり,直交する直線偏光に対する吸収差である直線偏光二色性(LD)に比べて極めて小さい.いくつかのメーカーから市販されている円二色性分散計では,CDの高感度検出を達成するため,光弾性変調器(PEM)を用いた左右円偏光の切り替えとこれに同期したロックイン検出が用いられている.PEMでは複屈折結晶に電圧を印可することで偏光を変調しているため,結晶の歪みやロックイン検出のタイミングのずれが少しでも生じると,容易に直線偏光成分が混入してしまい,これに起因するLDがCDの偽信号として現れる.よって,PEMを用いずに円偏光を生成する手法の確立が期待されており,いくつかの方法が提案されている. 本研究ではCDの高感度検出を目指した装置の開発を行った.我々の装置では,高繰り返し波長可変レーザーを用いることで左右円偏光の高速切替を実現した.光源には繰り返しが30 MHzのスーパーコンティニューム光源と音響光学フィルターを用いた.半波長板と偏光ビームスプリッターを用いて,パルス光を縦偏光と横偏光に分離し,縦偏光が通る光路を光学遅延させた.パルス光の間隔は約30 nsであり,パルス幅が3 ns以下であることから,縦偏光の光路に90 cm以上の光学遅延を導入すれば,横偏光のパルス光と空間的に分離できる.分離したパルス光を再び合流させることで,縦横の直線偏光が交互に並んだパルス列が得られた.これを1/4波長板に通すことによって,30 MHzで左右円偏光が切り替わるパルス列を生成した.本手法はPEMを用いた一般的な円二色性分散計と比べて左右円偏光の切り替えが約1000倍速い.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を進めるうえで,いくつかの技術的課題があった.第一に,縦偏光と横偏光をもったレーザーパルスを1パルスごとに切り替える部分である.当初はシングルモードファイバーを用いることで光学遅延を行うつもりであったがレーザーパワーの損失が大きく断念した.その後,単純な空間伸延を用いた光学遅延でも.下流の検出側を工夫すればCD信号を検出できることが分かったため,光学遅延に基づく円偏光の高速切り替えが可能となった.また,第二の技術的課題は,波長板を用いて生成した円偏光の偏光度を評価し,偏光度を改善していくプロセスの確立であった.これについては,当該予算で偏光計を導入し,偏光度をリアルタイムでモニターしながら,波長板と偏光子を繰り返し(自己整合的に)リモート調整することで達成した.今年度はCD計測装置の光源開発が目的であったため,研究はおおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
CD計測装置の光検出側の開発を主に進める.装置の構想としては,試料透過後の光検出器として自動バランス検出器を用いることを予定している.自動バランス検出器は2つの検出部をもっており,これらに入射された光の強度差を検出する.本研究で開発する装置では,試料を通過した左右円偏光をフレネルロム1/4波長板によって縦と横の直線偏光に戻し,偏光ビームスプリッターを用いてそれらを空間的に分離する.これにより,左右円偏光を2つの検出部に別々に入射することができるため,試料を透過した左右円偏光の強度差を検出できる.この手法では単一パルスを2分割することで生成した左右円偏光の強度差を検出しているため,1パルス毎の強度ゆらぎ(強度雑音)まで取り除くことが可能である.光検出側の開発が終わり次第,標準試料のCD測定を試みる.
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