研究課題/領域番号 |
22H02040
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
木村 佳文 同志社大学, 理工学部, 教授 (60221925)
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研究分担者 |
遠藤 太佳嗣 同志社大学, 理工学部, 准教授 (50743837)
藤井 香里 同志社大学, 研究開発推進機構, 助教 (90906603)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | イオン液体 / 不均一構造 / アルキル鎖長 / 超高速分光 |
研究実績の概要 |
化学反応の収率や選択性を環境によって如何に制御するかは、溶液化学における最も重要な課題の一つである。我々はイオン液体のカチオンのもつ無極性部位からなるドメイン構造を変化させることで、光励起プロトン移動の選択性を励起波長で制御できることを明らかにしてきた。一方で、アニオンのもつLewis塩基性により、局所的な配位構造が生じ、イオン液体固有の中間状態を見出した。本研究では、両者の相関にはじめて焦点をあて、超高速分光とNMR分光を用いて、イオン液体中での光化学反応の研究の新展開をはかることを目的とする。昨年度はプロトン移動反応におけるアニオンの効果を中心に、光カーゲート蛍光分光と過渡吸収分光法を用い測定をおこなった。その結果、分子内プロトン移動反応においてはアニオンのもつルイス塩基性が反応速度に大きな影響を与えることを明らかにした。また分子間のプロトン移動反応については、過渡吸収分光法により初期に生成するコンプレックスの反応素過程を明らかにすることに成功した。さらに誘導ラマンシステムの構築に取り組み、現在制作中の段階である。また誘導ラマンを構築する光学系において、ラマンパルスの代わりに配向パルスを系に導入し分子配向を制御して反応速度を測定してみたところ、反応速度が変化することを見出した。アニオンにアルキル鎖を付けたイオン液体の合成については、イミダゾリウムカチオンとエタンスルホン酸をベースに、カチオンかアニオンのいずれか、あるいは両方のアルキル鎖を伸ばしたイオン液体の合成に取り組み、その合成方法の確立にいたった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、分光測定はアニオンの違いによる反応速度の評価、ならびにOPAの構築と誘導ラマンへの適用などに取り組んだ。フラボノールの分子内励起状態プロトン移動反応速度については、光カーゲート法を用いた時間分解蛍光測定によりアニオン種の違いによる反応速度の違いの評価を進めた。水素結合受容能の異なる7種類のアニオンでのプロトン移動速度を比較した結果、水素結合受容能が大きくなるにつれて反応速度が遅くなることが明らかとなった。また電子状態計算の結果から水素結合受容能が大きくなるにつれてアニオンとフラボノールのノーマル体の間での会合体生成のエネルギーが大きくなり、プロトン移動が起こりにくくなることが示唆された。分子間のプロトン移動については5-シアノ-2-ナフトール(5CN2)と6-ヒドロキシキノリン(6HQ)を対象として、プロトン性イオン液体中での光励起反応初期過程の測定を行った。その結果、5CN2や6HQとアニオンとの間の会合体形成の速度定数を決定することができた。これらの成果は、学会で発表をおこなった。OPAの改良と誘導ラマンの構築もすすめた。現有の過渡吸収測定システムを改良して、パルスを一本追加したシステムを構築した。試みに赤外パルスで溶媒の配向をそろえたのち、光反応を検出するという実験をおこなったところ、赤外パルスの有無でフラボノールの反応性に違いが確認できた。さらにこの効果はイオン液体のアルキル鎖長とも関連していることが明らかとなった。さらにアルキル鎖長の効果が分子ダイナミクスに及ぼす効果についても検討をおこなった。 イオン液体の合成については、アニオンにアルキル鎖長を伸ばす系の合成を試みた。エタンスルホン酸をベースにアルキル鎖長を伸ばした系の合成をすすめ、異なるアルキル鎖長をもつアニオンからならイオン液体の合成に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
①分光測定 次年度は、本年度合成をすすめたアニオンにアルキル鎖長をもつイオン液体をもちいて、分光測定を進める。フラボノールの分子内プロトン移動系では、時間分解蛍光測定を主に利用し、反応速度定数がアニオンのアルキル鎖長を変えることによってどのように変化するかを明らかにしていく。また分子間プロトン移動の系においても、5CN2以外にジシアノナフトール(DCN2)の系の合成もおこない、その反応速度がアニオンのアルキル鎖によってどのように影響をうけるかを明らかにしていく。あわせて6HQの系での分光評価もおこなう。本年度発見した光配向による反応速度に対する効果について測定を、フラボノールの分子内PT系や、5CN2の分子間プロトン移動の系についておこない、アルキル鎖長の効果についてより詳細な検討を進める。また、この光学系を利用して、誘導ラマンシステムの導入をすすめる。さらにアルキル鎖長が分子の並進や回転などの運動ダイナミクスに及ぼす効果を、過渡回折格子分光法や蛍光異方性緩和などの手法によって検討をすすめる。 ②合成と基礎物性の評価 イミダゾリウム系でのアニオンのアルキル鎖長の異なるイオン液体については本年度確立した合成方法をもちいて、次年度大量合成をすすめ分光測定に供与するとともに、種々の物性の測定を進めていく。融点、粘度、溶媒和パラメーターの評価を行う。アルキル側鎖のプロトンの化学シフトおよびT1から側鎖のコンフォメーションや回転緩和にかかわる情報を取得する。これらと並行して、4級ホスホニウム ([Pnnnm]+)や4級アンモニウム ([Nnnnm]+) およびプロトン性のアンモニウム([N11nH]+)を用意し、カチオンの種類を変えていくことで反応特性がどのように変化していくかを検討する素材を準備する。
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