研究課題/領域番号 |
22H02046
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
所 裕子 筑波大学, 数理物質系, 教授 (50500534)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 分子磁性体 / 自発磁化 / 磁気力顕微鏡 / 磁気ドメイン |
研究実績の概要 |
本研究では、次世代の軽量型磁性材料の候補として注目されている分子磁性体を舞台とし、そのなかでも自発磁化を示す強磁性体の磁区に着目した研究を展開する。まずは分子磁性体の磁区状態の観察を通して、強磁性秩序のスケールや磁壁などの知見を得る研究を行う。そして次のステップとしては、光磁性体において光誘起磁化を発現させ、光磁気ドメインを観察することで、光磁化の発達過程の解明を行うことを目的としている。 当該年度は、分子磁性体の磁区状態の観察を通して、強磁性秩序のスケールや磁壁などの知見を得る研究を進めた。研究対象物質としては、プルシアンブルー類似体磁石に着目し、CrCrヘキサシアノ系金属磁性錯体(1)とFeCrCrヘキサシアノ系金属磁性錯体(2)を電気化学的手法により合成した。そして、合成した試料が、非常に滑らかな表面をもつ薄膜試料であることを確認した。磁気測定を行ったところ、試料1は、分子磁性体として高い磁気相転移温度(TC)244 Kを示す強磁性体であることを確認した。この試料においてMFMを用いて磁区観察を行ったところ、Tc以下の153Kにて磁気ドメインを観察することに成功した。ドメインは数マイクロメートルからなるメイズパターンと呼ばれる形状であった。試料2の磁気特性を調べると、Tc = 222 Kで自発磁化を生じ、さらに134 Kに補償点をもち、これ以下の温度では負の磁化を示すN型フェリ磁性体であることを確認した。この試料においてMFMを用いて磁区観察を行ったところ、試料1と同様、数マイクロメートルからなるメイズパターンと呼ばれる形状を示し、さらに、MFMイメージの温度変化を調べると、磁気ドメインの形状を保ったまま磁化の強弱が変化することで、正磁化から負磁化に磁化状態が変化する様子が観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、次世代の軽量型磁性材料の候補として注目されている分子磁性体を舞台とし、そのなかでも自発磁化を示す強磁性体の磁区に着目した研究を推進している。計画では、まずは分子磁性体の磁区状態の観察を通して強磁性秩序のスケールや磁壁などの知見を得る研究を行い、そして次のステップとして、光誘起磁化における光磁気ドメインの観察および光磁化発達過程の解明を目的としている。 当該年度は、当初の計画通り、分子磁性体の磁区状態の観察を通して、強磁性秩序のスケールや磁壁などの知見を得る研究を進めた。磁区観察用装置としては、磁気力顕微鏡(MFM)を用いた。そして、MFM観察するために必要とされる滑らかな表面を有する分子磁性薄膜材料、CrCrヘキサシアノ系金属磁性錯体(1)およびFeCrCrヘキサシアノ系金属磁性錯体(2)を電気化学的手法により合成した。そして、合成した試料の磁気特性を調べ、予想通りの磁気特性を示すことを確認した。これらの合成した試料においてMFM測定行い、磁気ドメインを観察した。そして、ドメインは数マイクロメートルからなるメイズパターンと呼ばれる形状であるという知見を得た。さらに試料1においては、無磁場下ではメイズパターンを示していた磁区が、磁場印加下ではストライプパターンに変化することを確認した。また、試料2におけるMFM観察でも、試料1と同様に数マイクロメートルからなるメイズパターンと呼ばれる形状を観察した。さらに、MFMイメージの温度変化を調べると、磁気ドメインの形状を保ったまま磁化の強弱が変化することで、正磁化から負磁化に磁化状態が変化する様子が観測された。現在、モンテカルロ計算を行い、上述した表面磁化挙動について解析を進めている。上述のように、現在本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、これまでに観測した分子磁性体における磁気ドメインについて、強磁性秩序のスケールやモロホロジーの起源について、スピンの統計的な振る舞いを計算するのに最も適したモンテカルロ計算を用いて解明を進める予定である。また、光磁気ドメインの観察においては、110 Kまでの低温実験が可能で、かつ光照射が可能なMFM装置を使用して実験を行う。光磁性を示す分子磁性体としてこれまでに報告されている最も高い磁気相転移温度は90 Kであるが、本研究では、磁気相転移温度110 K以上の光磁化を示す新規物質を用いる計画である(物質および現象ともに未発表)。この物質を研究対象とし、薄膜化や単結晶化を行い、MFM観察が可能な高い平滑性の表面をもつ試料を合成する。そして、光照射後のスピン発現過程、スピンから磁化への成長過程、磁化成長過程における磁気異方性の効果について観測し、多次元的相転移の相関効果を解明していく予定である。
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