研究課題/領域番号 |
22H02048
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
宮前 孝行 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (80358134)
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研究分担者 |
宮本 克彦 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (20375158)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 有機デバイス / オペランド計測 / 界面 / 電荷蓄積 / 和周波発生 |
研究実績の概要 |
有機デバイスは、電極上に有機薄膜を積層させた構造を有する。実用化に向けた研究開発が進む一方で、根幹となる駆動機構と高機能化、長寿命化、高信頼性に向けた本質的な基礎学理は完全に確立されているとは言い難い。OLEDにおいて、特に異種有機界面での分子配向と電荷輸送特性に関しては定性的な理解のみで、実際どの程度素子特性に関与しているのかについては未だ明確にはされていない。一方で,実際に有機デバイスを安定して駆動させるには素子不良の原因となる水分などの影響を排除するため、ガラスなどに封入された状態であることが多く、非破壊の状態では動作中のデバイスの界面を選択して計測することは困難であった。 これを解決する手段として,我々は,二次の非線形分光であるSFG分光法を用い,素子に電圧を印加した際に生じる電界誘起効果を利用することで,素子内を移動する電荷の状態を非破壊で計測することに挑戦してきた,本研究では,時空間解析による有機デバイスの電荷輸送挙動の解析に挑む。 計画初年度では有機ELにおいて,一般的に用いられるトップエミッション型OLEDでの解析を試みた。トップエミッション型は,光取り出し効率が優れている反面,半透明の極薄膜電極を用いているため,レーザ光の照射による損傷の程度を評価する必要がある。SFGで用いる光強度を調整した結果,従来型のボトムエミッションOLEDに比べてトップエミッション型ではSFG光取り出しの効率が飛躍的に高いことが示された。これはトップエミッションOLEDが持つキャビティ構造が作用しており,トップエミッションOLEDでも電荷輸送挙動を追跡可能であることが示された。 また,有機トランジスタ(OFET)積層膜では,絶縁体薄膜上に有機半導体を積層させると,絶縁体薄膜の配向秩序が乱されることを新たに見出した。今後電荷輸送と配向秩序との関係について詳しく調べていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度においては,実用化パネルで多く採用されているトップエミッションOLEDに注目し,研究で広く用いられているボトムエミッションOLEDとの構造的な違いを検討することから研究をスタートした。トップエミッション型OLEDは,ボトムエミッション型OLEDに比べ,光取り出し効率が優れている反面,半透明の極薄膜電極を用いているため,レーザ光の照射による損傷の程度を評価する必要がある。SFGで用いる光強度を調整した結果,従来型のボトムエミッションOLEDに比べてトップエミッション型ではSFG光取り出しの効率が飛躍的に高いことが示された。これはトップエミッションOLEDが持つキャビティ構造が作用しており,トップエミッションOLEDでも素子に損傷を与えることなく電荷輸送挙動を十分追跡可能であることが示された。また,有機トランジスタ(OFET)積層膜では,絶縁体薄膜上に有機半導体を積層させると,絶縁体薄膜の配向秩序が乱されることを新たに見出した。同時にX線回折による有機半導体薄膜の結晶性を評価したところ,絶縁膜を挿入することにより,明らかに有機半導体の結晶性秩序が向上しており,FET特性も向上することが見出された。今後,さらに種々の有機半導体と,絶縁体薄膜との組み合わせを用いて,系統的に界面での分子配向秩序を調べていくことで,電荷輸送と配向秩序とのかかわrについて詳しく調べていく。 2022年度秋にSFG分光システムの赤外発振ユニットが故障し,SFG測定を継続的に行うことが困難になった。赤外ユニットについては,現在修理を進めており,今年度前半での回復を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
有機では椅子の電荷輸の計測に関しては,振動和周波発生だけでなく,新たに電子和周波発生の測定を可能にするようにSFG分光システムを再構築している。これまでに提案者が進めて来た,振動和周波発生を用いた有機デバイス解析においては,分子振動を分子固有の指紋として用いることで電荷蓄積の有機界面を解析し,電荷挙動の追跡に用いていたが,この手法では,バンドギャップの大きい有機物の振動を捉えることが技術的に難しく,限られた有機層の情報しか得ることが出来なかった。新たに構築しようとしている電子和周波計測システムを用いることで,各有機層固有の電子状態,電荷輸送,蓄積状態を評価・解析することが可能になる。波長可変可視光ユニットと近赤外光の電子和周波は紫外領域の波長帯域を有しており,有機半導体,機能性有機材料の個別の吸収帯の電荷挙動を詳しく調べることが可能となる。 2年目の初めに,①電子和周波計測システムの構築,②振動和周波測定のための赤外発振ユニットの修理,を同時に進めていく。さらに,電子和周波を用いて,有機ELで用いられている有機薄膜の各層の電子共鳴SFGスペクトルを取得し,実際の有機ELを駆動した際の電子和周波スペクトルの変化挙動と照らし合わせることで,有機EL内部における電荷挙動の全貌を明らかにすることを目指す。 電荷挙動の計測に関して,有機材料の帯電現象に由来する電荷蓄積についても検討を同時に進めていく。
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