研究課題/領域番号 |
22H02058
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
猪熊 泰英 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80555566)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ポリケトン / π共役 / ポルフィリン / 色素 |
研究実績の概要 |
Calix[3]pyrroleの類縁体として、Calix[1]furan[2]thiazoleをHantzschチアゾール合成法を用いて直接環化することに成功し、60%という高い収率でこのマクロサイクルを得る手法を確立した。理論計算によって、環歪みを最小限に抑える分子設計を行うことで、酸に対しても安定で、かつ1ステップ高収率の合成を達成した。 得られたCalix[1]furan[2]thiazoleは、フラン環を加水分解した後にPaal-Knorr合成を行うことでCalix[1]pyrrole[2]thiazoleへと78%の収率で変換でき、この化合物は亜鉛やパラジウム、銀といった金属イオンと錯体を形成することも分かった。エチル亜鉛との錯形成では、水やアルコールの存在下でも安定に取り扱える有機亜鉛試薬が得られ、さらにこの錯体がラクチドの開環重合触媒になることも見いだした。 また、Calix[3]pyrroleのアニオン包接においては、MD計算を使ったコンフォメーション解析を行い、アニオン不在下ではpartial-cone型の立体配座がcone型よりも安定であることを明らかにした。ところが、フッ化物イオンと水素結合することで、不安定なcone型が誘起され固定化されていた。そのため、calix[3]pyrroleはcalix[4]pyrroleに比べてアニオンとの会合定数が著しく小さくなることも分かった。 さらに、高次calix[n]furanやpyrroleをグラムスケールで合成する手法も確立し、新規ポルフィリン類縁体ホスト化合物の合成に大きく貢献した。フランとアセトンの酸縮合により混合物として生成するcalix[n]furan (n=4,5,6)を、溶解度の差を用いてグラムスケールで分取する手法を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
理論計算で環歪みを簡便に予測し、合成可能性を的確に調べられるようになり、これまでtrial-and-errorに頼っていたcalix[3]pyrrole類縁体の合成が飛躍的に簡便になった。これにより、これまで導入が困難であったチアゾールなどの金属配位性が高いヘテロ芳香環を使ってcalix[3]pyrrole類縁体が合成できるようになった。そこで、金属錯体の合成へと展開したところ、環縮小ポルフィリンに特異的な性質が数多く現れた。構造的な特徴として、cone型とpartial-cone型の配座を金属種に応じて変換できることが分かった。また、金属イオンを使った自己組織化にも展開できた。これらの性質により、これまで歪みとπ共役だけで物性創出を行ってきた環縮小ポルフィリンの化学に、金属イオンの性質を組み合わせることができるようになった。その一例として、重合触媒をcalix[3]pyrrole類縁体の金属錯体から作り出すことができたのは大きい。今後は、チアゾールの導入と金属錯形成を足掛かりとして、歪み誘起環拡大反応に依存しない巨大calixpyrrole類の合成にも展開できると考えている。 また、ポルフィリノイドの原料となるポリケトン誘導体からは、複合ガン医薬や卵巣ガン診断デバイスといった医療への応用が出てきた。これらの研究成果は、当初の研究計画を遙かに上回る結果であり、より大きな波及効果が見込まれる。今後も、継続的に、この新しい応用の方向を探りつつ、calix[3]pyrrole類を実用化する道も探る予定である。
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今後の研究の推進方策 |
Hantzschチアゾール合成と金属錯形成の手法を駆使して、単分散ポリケトン原料から未踏の巨大ポルフィリン類、calixpyrrole類を合成する手法に挑戦する計画である。巨大マクロサイクルは、これまで類を見ない巨大なアニオンや中性分子を包接し、特異な化学反応を誘起する基盤となると期待される。選択的包接のターゲット分子として、ポリオキソメタレート、ヌクレオチドなどを想定した環サイズの選択的合成と滴定実験を行う計画である。大環状calixpyrrole類縁体の合成は、ロタキサンやカテナン、分子ノットなどの機械的連結分子への展開も可能にすると考えられる。環縮小ポルフィリンから派生する巨大ポルフィリン類縁体の独自の化学を構築するためにも、これらの未踏分子合成にも積極的に挑戦する。 また、環状BODIPY錯体を基盤とする色素合成においても、高度な酸耐性を主体としたよりいっそうの機能向上を目指して、周辺官能基化反応の検討を行う予定である。当初は、胃酸程度の酸性環境下における細胞や酸耐性菌の染色を応用に考えていたが、現状のBODIPY色素はそれよりもさらに強い酸性条件で蛍光のスイッチングが起きている。スイッチングの起源となる電子移動ドナー部位に適切な電子供与性置換基を導入することでプロトン授与能を高め、より弱い酸性条件下でもスイッチング可能な色素へと展開する計画である。一方、強酸性条件下における蛍光スイッチングは、ナフィオン等の人工材料の染色に応用できそうであるため、既存のBODIPY色素の応用範囲にとらわれない材料応用を探る予定である。
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