研究実績の概要 |
2022年度は、meso位の窒素上に置換基をもつ2種類のアザポルフィリン誘導体(5,10,15,20-テトラアリール-5-アザポルフィリンおよび5,10,15,20-テトラアリール-5,15-ジアザポルフィリン)を題材として、その合成および物性の解明に取り組んだ。前者の化合物(TAMAP)については、アザテトラピリン前駆体の鋳型環化反応を利用する新しい合成法を確立した。また、後者の化合物(TADAP)については、亜鉛錯体の脱メタル化を介するフリーベース体の効率的な合成法を確立した。いずれの化合物群においても、酸化・還元反応は可逆的に進行し、光物性が酸化状態に連動して大きく変化することを明らかにした。また、一部のTAMAP亜鉛錯体のX線結晶構造解析に成功し、アザポルフィリン環が高い平面性をもつことを確認した。参照化合物となる5,10,15,20-テトラアリールポルフィリン(TAP)とTAMAP、TADAPの酸化還元電位を比較した結果、電荷が+1増加するにつれ18π系の酸化還元電位が0.5―0.6 Vずつ正側にシフトすることが明らかとなった。一方、核磁気共鳴法と理論計算により、18π電子系を持つTAP、TAMAP、TADAPの環電流効果を比較した結果、TAMAPの反磁性環電流効果が最も小さいことが明らかとなった。この結果は、TAMAPにおけるπ電子系の分極が芳香族性に大きな影響を与えることを示唆している。さらに、TADAPフリーベースの錯形成反応を検討し、白金やケイ素の錯体が得られることを確認している。得られた成果の一部については、10件の学会発表を行ったほか、3報の論文として報告した。
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