研究実績の概要 |
2023年度は、meso位の窒素上に置換基をもつ5,10,15,20-テトラアリール-5,15-ジアザポルフィリン(TADAP)および5,10,20-トリアリール-5,15-ジアザポルフィリン(TriADAP)を題材として、その合成および構造―物性相関の解明に取り組んだ。TADAPについては、前年度に亜鉛錯体の脱メタル化によるフリーベース体の一般的合成法を確立したので、今年度は主にフリーベース体の錯形成と軸配位子の交換を利用してケイ素錯体とスズ錯体を合成した。いずれの錯体においても、DAP環の20π/19π/18π酸化還元反応は可逆的に進行し、20π電子系を持つ反芳香族性TADAPや19π電子系を持つTADAPラジカルが大気下で安定に存在することを確認した。また、得られた金属錯体のX線結晶構造解析、紫外/可視/近赤外吸収スペクトル測定、NMR測定、密度汎関数理論計算を行い、DAP環が高い平面性をもつことや、軸配位子が吸収特性や環電流効果に及ぼす影響は比較的小さいことなどを明らかにした。TriADAPについては、窒素上に置換基を持たないDAPのN-アリール化による合成法を確立し、ニッケル錯体と白金錯体の合成に成功したほか、19π電子系を持つDAP二量体における不対電子の非局在化の様式が、meso-窒素上の置換基の数に依存して大きく変化することを明らかにした。さらに、1個のピロール環の代わりにベンゼン環を構成要素として含む核置換5,10-ジアザポルフィリンの錯形成を行い、白金錯体や銅錯体の合成に成功した。得られた成果の一部については、8件の学会発表を行ったほか、2報の論文として報告した。
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