研究課題/領域番号 |
22H02069
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
美多 剛 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任准教授 (00548183)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 二酸化炭素 / カルボキシル化 / 電気分解 / ラジカルアニオン / 可視光 / 光電子移動触媒 / インドール / ナフタレン |
研究実績の概要 |
地球温暖化物質である二酸化炭素(CO2)を有機化学の観点から利用し、持続可能な社会のための付加価値の高い有機化合物を創出することを目的として、令和4年度はCO2を用いる新規ジカルボキシル化反応を開発した。この反応は、電解還元法を用いて、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、電子求引基を有するフランやチオフェンなどのヘテロ芳香環を脱芳香族化しながら、CO2を二分子導入することが可能である。本ジカルボキシル化反応の開発にあたり、報告者は量子化学計算(人工力誘起反応法(AFIR法)を含む)を用いて反応機構を予測し、またDFT計算により原料の酸化還元電位を計算することで反応開発を進めた。その結果、高収率でダブルカルボキシル化体を得ることに成功した。さらに、反応条件を網羅的に検討することで、水を添加する条件を見つけ、モノカルボキシル化体を選択的に得ることにも成功した。続いて、CO2のラジカルアニオンを利用した反応の開発にも着手した。具体的には、青色LED照射下でギ酸セシウム、光電子移動触媒、HAT触媒を使用し、ヘテロ芳香環へのCO2のラジカルアニオンの付加反応の開発に成功した。この反応は、電子求引性基が置換したナフタレン誘導体でも進行することがわかり、CO2のラジカルアニオンによるナフタレン環のひとつの二重結合の還元とCO2のラジカルアニオンそれ自身の付加が同時に起きることがわかった。これらの成果は、CO2の有効利用に寄与し、持続可能な社会を支えるための有望な技術の一つとなり得る。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は、CO2を有機化合物に付加させるために電気化学的還元法を用いて、ヘテロ芳香環にCO2を二分子導入することに成功した。これは、従来のジカルボキシル化反応とは異なり、二つのカルボキシ基を同時に導入できることが特徴である。反応機構については、量子化学計算(人工力誘起反応法(AFIR法)を含む)を用いて予測し、実験結果と照らし合わせることで、高い収率で生成物を得ることができた。加えて、青色LED照射下で光電子移動触媒とHAT触媒を用いた反応系を構築し、ナフタレン誘導体へのCO2のラジカルアニオンの付加反応を実現した。この反応は、ラジカルアニオンによるナフタレン環のひとつの二重結合の還元とCO2のラジカルアニオンそれ自身の付加が同時に起きることがわかった。この反応においても、量子化学計算を用いて反応機構を解明し、実験結果と照らし合わせることで反応系を最適化した。現在、報告者はさらに高い収率で反応を進行させるため、触媒系の最適化や反応条件の改善を試みている。また、ナフタレン誘導体以外の有機化合物に対するCO2ラジカルアニオンの付加反応についても研究を進めている。これらの研究は、CO2の効率的なリサイクルと新しい有機化合物の開発に貢献することが期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度はβ-アミノ酸の化学合成に取り組む。すなわち、可視光照射下、分子内にアミンとアルケンを有する基質に対してCO2雰囲気下で環化-カルボキシル化を行うことで、環状のβ-アミノ酸を合成する。そのための条件検討、基質検討を精力的に行う。また、収率の向上を期待し、反応過程の理解や反応条件の最適化に取り組む。加えて、これまで、電気化学的に成功していたヘテロ芳香環のジカルボキシル化反応が、可視光を用いても進行することがわかった。すなわち、発生したCO2ラジカルアニオンがインドールやベンゾフランに付加した後、生成したベンジルラジカルがさらに一電子還元を受けて生成したカルバニオンがCO2へ付加する反応を見出した。これにより、CO2の利用範囲が広がり、新しい化合物の合成につながる可能性があるためその応用展開を図る。このように、β-アミノ酸のラジカル的な化学合成とCO2を用いたジカルボキシル化反応の開発に注力することを計画している。
|