申請者は最近、優れた窒素官能基化反応剤となりうる物質、N-(フルオロスルホニル)カルバミン酸エステルを発見した。本研究はこの極めて単純な構造で合成も簡単かつ安定な反応剤を軸としたユニバーサルな窒素官能基化法を確立することを目的としている。ユニバーサル(使い易く、汎用性と実用性を兼ね備える)になりうる根拠を研究開始当初から二つ持っており、ひとつはいくつかの反応形式で芳香環やアルケンなどの窒素官能基化に成功しつつあること、もうひとつは生成物のアミンやスルホンアミドといった有用窒素官能基への単工程誘導化に目途がついていることである。反応剤のバリエーションを拡げる研究、触媒化学・光化学・電気化学といった方法論を多角的に取り入れた反応開発、生成物誘導化法開発を推進することとした。 1年目は(1)N-(フルオロスルホニル)カルバミン酸エステルの窒素上に塩素などのヘテロ官能基を導入する新試薬の開発、(2)生成物の誘導化手法の開発、(3)本研究開始時点で確立されていたN-フルオロ-N-(フルオロスルホニル)カルバミン酸エステル(NFC試薬)の合成展開を行った。後半の二つについては極めて順調に研究が進捗したが、一つ目の課題において、想定以上に合成した標的反応剤の安定性が乏しいことが確認された。そこで最終的に系中発生法を採用することでその利用法にめどが立ち、不活性アルケンのアンチ特異的アミノクロロ化反応を実現した。
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