研究課題/領域番号 |
22H02082
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
柳 日馨 大阪公立大学, 研究推進機構, 特任教授 (80210821)
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研究分担者 |
兵藤 守 大阪公立大学, 研究推進機構, 特任准教授 (30548186)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | C-H 官能基化 / 光触媒 / タングステートアニオン / サルフェートラジカル / ラジカル極性効果 |
研究実績の概要 |
有機化合物のC-H結合の位置選択的な官能基化はもっとも直裁的であり、有機合成で待ち望まれる変換法となるが、成功例は未だ少なく、現代有機化学が取り組むべき課題の一つである。本研究では特にラジカル反応の潜在力に基盤を置き、C-H結合の位置選択的な官能基化を見出す。さらに触媒的ラジカル種によるC-H結合の官能基化へと研究を発展させることで長年の課題に突破口を切り開くことを目的とするが、本年度においては 光触媒による新規な脂肪族C―H結合のアリル化反応と関連反応の開発において良好な成果を得た。 ラジカル付加とベータ開裂に基盤を置いたC-Hアリル化についてデカタングステートイオンを光触媒として検討した。その結果、期待した脂肪族C―H結合の触媒的アリル化に成功した。続いて脂肪族C―H結合の触媒的アルキニル化をベンゼンスルフォニル基で置換したアセチレンを用いて検討し、期待したC―Hアルキニル化に成功した。さらにアルファ位にベンゼンスルフォニル基を有するオキシムエーテルを用いた反応を検討し、この反応においても期待した脂肪族C―H結合の触媒的イミノ化に成功した。位置選択性においては光励起されたデカタングステートイオンによる水素引き抜きの遷移状態におけるラジカル極性効果と立体効果の発現が示唆された。例えば3,3―ジメチルシクロへキザノンにおいては5位炭素上における水素引き抜きが選択的に生起し、位置選択的なアリル化、アルキニル化、そしてイミノ化が達成できた。なお、エーテル酸素やアミド窒素のアルファ炭素上のC―H結合は比較的弱いため、均等開裂反応を起こしやすいことが予想されるが、本研究の進展過程において、ベンゼンスルフォニルラジカルによる水素引き抜き反応を確認した。このことから、これらの化合物の反応では非触媒型のラジカル連鎖反応による目的化合物の生成経路が介在することを新たに提示するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度の研究が当初計画よりも順調に成果を上げていると判断している根拠は光触媒反応系の開発が急速に進展したところにある。すなわち、目標とした三つのパターンの触媒的なC―H結合の官能基化反応であるC―Hアリル化、C―Hアルキニル化、C―Hイミノ化をいずれも達成し、その成果の一部を論文として即座に発表した。これらの例では多数のC―H結合を持つ有機分子において、本研究が目的とした遷移状態における極性効果と立体効果が選択的なC―H結合開裂に寄与しており、そのことで官能基化の原動力となる仮説を裏付けるものとなっている。一方、研究の進展の過程において有機ケイ素化合物を取り上げたところ、興味深いことにメチル基のC―H結合の選択的な開裂例を予期せずに見出すことが出来た。メチル基のC―H結合は結合解離エネルギーからしてもメチレンやメチンC―H結合よりも強固なことが知られており、難度が高く、実際、その選択的官能基化の例は限られている。このことから、種々の有機ケイ素化合物および同族体である有機ゲルマニウム化合物の有機側鎖への位置選択的な反応性をスクリーニングし、メチル基のC―H結合の活性化のための指針を得ることにも注力していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
ラジカル活性種による水素引き抜きの遷移状態での極性効果を最大限活用するC―H結合の官能基化手法を発展的に展開するためには、現在中心を置いている酸素中心ラジカル活性種による触媒反応のさらなる一般化に加えて、高効率な触媒反応化をはかる研究展開が肝要であり、特に予備検討で有用性が示されたサルフェイトラジカルの触媒的発生に力点を置きたい。このように活性種の触媒化と多様化をはかることで適用例の拡大と共に極性支配型ラジカル反応手法の有用性を主導的に世界に提示していくことにつながるものと考える。もうひとつの視点は窒素中心ラジカルやリン中心ラジカルなど遷移状態でのネガティブな極性効果の発現が期待できるヘテロ元素中心ラジカルについてである。C―H結合からの水素引き抜きの位置選択性の観点から、基本的な反応挙動を精査していく。ここにおいて極性的にはポジティブであり、水素引き抜き能力の発現例がほとんど知られていないケイ素中心ラジカルの反応挙動も並行して精査していく。この際に、遷移状態計算を積極的に取り入れることで、実際に行う検証化学実験の予測効率を高めるとともに、検証結果の迅速な獲得に貢献させることとしたい。このことから計算化学の研究者との連携をはかる方策である。
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