研究課題/領域番号 |
22H02084
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐藤 隆章 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (70509926)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | アミド / 求核付加反応 / 天然物の全合成 |
研究実績の概要 |
複雑な分子構造ゆえに医薬品候補から除外されていた多環性アルカロイドを完全化学合成で実践供給するため、アミド基選択的な求核付加反応を基盤とした「超短工程化アミド戦略」の一般化と、多環性アルカロイドの短工程合成を目的とした。本戦略では、1)入手容易で化学的に安定なアミドを出発原料とし、2)合成序盤におけるアミド基の反応性を利用した連続的な骨格形成と、3)合成終盤のアミド基選択的な求核付加反応により、これまでの常識を超えた短工程数で、多置換アミン骨格が合成可能になる。具体的には、還元的アゾメチンイリド合成法による二量体インドールアルカロイドの全合成(課題1)、還元的ニトロン合成法によるカリシフィリンBの全合成(課題2)、還元的Mannich反応を鍵反応としマナドマンザミンAの全合成(課題3)である。 (課題1)入手容易なラクタムから、アルキル化を用いた骨格形成で得られた基質に対し、還元的アゾメチンイリド合成法を適用し、共通中間体となる三環性ケトンを得た。続いて、Fisherインドール合成により、アスピドスペルマ類に属する単量体インドールアルカロイドの迅速全合成に成功した。また、新たな「超短工程化アミド戦略」を拡張し、Ir還元触媒と光還元触媒を組み合わせたアミド基変換反応を開発し、エブルナン類の単量体インドールの全合成に成功した。 (課題2)市販原料より3工程で調製できるキラルなラクタムに対し、アルキル化とラクタム窒素の酸化反応で、N-ヒドロキシラクタムを得た。得られたラクタムに還元的ニトロン合成法を適用し、カリシフィリンBの全合成における三環性中間体の合成に成功した。 (課題3)マナドマンザミンの全合成における鍵反応:還元的Mannich反応に用いる2つの大員環構築に取り組んだ。Z-選択的なWittigカップリングとマクロラクタム化を組み合わせ、大環状ラクタムの合成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(課題1)二量体インドールアルカロイドの合成に必要な単量体インドール類の合成は順調に進んでいる。還元的アゾメチンイリド合成法を駆使し、アスピドスペルマ類に属する単量体インドール類が合成できた。また、「超短工程化アミド戦略」に基づき、当初の計画を越えた光還元触媒を駆使するアミド変換反応の開発に成功し、エブルナン類の単量体インドールアルカロイドを合成できた。よって、課題1は極めて順調に進んでいる。 (課題2)キラルなラクタムに対し、鍵反応である還元的ニトロン合成法を用いて、三環性中間体の合成に成功した。その中で、今後の全合成の実現には、キラルなラクタムの大量供給に課題があることが分かった。 (課題3)マンザミン類の合成では、2つの大環状アミンの構築に多工程を要する点が大きな課題として知られている。しかし、「超短工程化アミド戦略」ではアミド基の特性を利用できるため、マクロラクタム化による効率的合成が可能である。これにより、全合成における難関となっている2つの大員環構築の合成経路が確立できた。
以上、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
(課題1)単量体インドールアルカロイドの合成経路の確立に成功しており、次の課題は二量化反応の開発である。まず、二量化反応を十分に検討するために、単量体天然物の大量供給を可能とするように合成経路の改善に取り組む。その後、2つのインドール天然物を連結するのに必要な、強力かつ穏和な反応条件で進行する二量化反応の条件確立に取り組む。 (課題2)鍵反応である還元的ニトロン合成法の有用性は明らかとなったが、カリシフィリンBの全合成を実現するには、鍵反応の基質となるキラルなラクタムの供給量が不十分であることが分かった。そこで、ラクタムの反応性を活かした新たな骨格形成反応を開発する。その後、全合成へ向けて三環性中間体に残りの環を連結する予定である。 (課題3)2つの大環状ラクタムが得られたので、次の課題は鍵反応である還元的Mannich反応の条件確立である。2つの大環状ラクタムをMannich反応へ応用する例はなく、触媒や酸を含めた詳細な反応条件の検討を予定している。
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