研究課題/領域番号 |
22H02094
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 健太郎 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (40281589)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ナノ空間 / 液晶 / 機能変換 / 分子認識 / 反応 |
研究実績の概要 |
本年度は、以下の項目を検討した。 1大環状分子によるナノ空間内在型液晶の合成:分子の内包に適した液晶性大環状化合物の合成法を検討した。大環状分子の効率的な合成法の一つに金属策形成を基にした自己集合による合成法が上げられる。熱力学をもとにした自己集合は、ホスト-ゲスト化学のための大きな分子空間を構築するための最も強力な方法の1つである。自己集合は、水素結合、配位結合、静電相互作用などの迅速かつ可逆的な結合形成を利用することで、自動的に繰り返し修復により、最も熱力学的に安定した生成物を一義的に与える。しかし、平衡反応に基づく可逆的な結合形成は、高度に希釈された溶液、または平衡を乱す外部刺激の存在下で生成物の変形を引き起こす可能性がある。よって、解離反応速度が極めて遅い金属錯体を分子骨格にもつ大環状金属錯体を設計し、その合成に成功した。 2液晶内に構築した時空間的継続性のあるナノ空間の実証: 液晶は流動性を持ち、結晶に比べて分子の並び方に揺らぎや動きがあるため、液晶の中に時空間的継続性のあるナノ空間が存在するのかについて実験的に証明することが課題となっていた。そこで本研究では、129Xe NMR分光法を用い、約1ナノメートルの孔のサイズをもつ大環状化合物を用いて作成したカラムナー液晶の細孔空間解析を行い、液晶が「ナノの孔」をもつ多孔性液晶であることを明らかにした。また、ナノ空間内に分子を包接できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環状の化合物を筒状に並べて構築する「カラムナー液晶」を設計し、その液晶内部に「ナノの孔」を作る検討を行ってきたが、液晶は流動性を持ち、結晶に比べて分子の並び方に揺らぎや動きがあるため、液晶の中に本当に「孔」が存在するのかについて実験的に証明することが課題となっていた。 そこで、129Xe NMR分光法を用い、約1ナノメートルの孔のサイズをもつ大環状化合物を用いて作成したカラムナー液晶の細孔空間解析を行い、液晶が「ナノの孔」をもつ多孔性液晶であることを明らかにした。129Xe NMR分光法は、Xe原子をプローブとして多孔性固体材料や高分子材料に取り込ませ、材料中の細孔空間解析の手段として用いられてきた。今回、大環状化合物のカラムナー液晶中での「ナノの孔」の存在を明らかにするために、Xeをプローブとして、129Xe NMR分光法による細孔空間解析を行った。 幅広い温度範囲でカラムナー液晶相を発現する大環状化合物と共に129Xeガスを封入した試料について129Xe NMR測定を行い、カラムナー液晶組織の中央にあいた「ナノの孔」に取り込まれたXe原子のシグナルを観測することに成功した。また、「ナノの孔」に取り込まれたXe原子の運動性を調べる実験を行ったところ、カラムナー液晶相の内部を拡散するXe原子は、直径が約0.5 ナノメートルのチャネル状の孔があいたゼオライト中と同等の速度で拡散していることが示唆され、多孔性液晶の中にXe原子が動き回れる空間が存在していることが明らかとなった。この研究成果は、液晶性ナノ空間内に選択的に分子を導入する実証実験とともに論文としてAngew. Chem. Int. Ed.誌において発表した。この論文は、同誌のBack Coverにおいてハイライトされた。
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今後の研究の推進方策 |
検討事項1 大環状分子によるナノ空間内在型液晶の合成 ライブラリー拡張を行う必要があるため、引き続き液晶性大環状分子の構成を行う。液晶性大環状化合物は、平面性大環状部位と外側に伸びる側鎖の二種類の機能部位によって構成されている。平面性大環状部位は、金属錯形成や動的共有結合形成を利用した自己組織的な合成法を用いることにより効率よく形成できる。また、大環状化合物内部に任意の官能基を導入することもデザイン可能である。大環状部位は、分子を内包できるサイズであるため分子量も大きく、会合性が高く、固体もしくは結晶となりやすい。液晶性の発現には、その会合力を落とすための側鎖の分子デザインも重要である。 検討事項2液晶性ナノ空間内での共役高分子、電荷移動系金属錯体の合成 引き続き液晶性ナノ空間内での共役高分子、電荷移動系金属錯体の合成の検討を行う。 検討事項3液晶のナノーマクロ相互制御 ゲスト分子導入に伴う、液晶のマクロな物性制御についての検討を行う。
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