研究実績の概要 |
2023年度の研究では、鉄(IV)(オキシド)(5,10,15,20-テトラメシチルポルフィリンラジカルアニオン)の軸配位子を変えた酸化活性種(以後、Compound I)を種々調製し、これらを用いたシクロヘキサンの酸化反応を検討することで、活性点であるオキソ配位子のトランス位配位子からの電子的摂動が、シクロヘキサン酸化反応の活性化障壁に与える影響について検討した。 Compound I 前駆体である鉄(III)錯体に、硝酸アニオン、三フッ化酢酸アニオン、フッ化物アニオン、9-フッ化-t-ブトキシドなどを配位させたものを調整し、1H NMRおよび紫外可視吸収スペクトルよりそれらの生成を確認した。さらに、これらの錯体とオゾンを反応させることによって、種々の軸配位子をもつ Compound I を生成させ、紫外可視吸収、EPR、共鳴ラマンスペクトルにより同定を行った。また、電気化学的手法を用いてこれらの錯体の一電子還元電位を測定した。続いて、錯体の溶液にシクロヘキサンを加えることでその酸化反応を開始し、電子遷移スペクトルによってCompound I濃度の経時変化を直接追跡・解析することにより、反応の速度定数(k)を決定した。得られた速度定数の対数値(ln k)について、Compound I の種々の物性値との相関を解析した。 ln k は、Compound Iの鉄-酸素伸縮振動によるラマンバンドの波数と直線性を示し、π供与性の高い軸配位子を持たせた酸化活性種ほど高い反応活性があった。これはCompound I による水素引き抜きは、反応点であるオキソ配位子のトランス配位子からのπ電子供与性により促進されるということを示している。この結果は、Compound I の活性を高めることが知られるチオラートやクロライドといった配位子の効果を矛盾なく説明するものである。
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