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2023 年度 実績報告書

細胞内小器官を標的してがん細胞選択的な細胞死を誘導する金属錯体の開発

研究課題

研究課題/領域番号 22H02097
配分区分補助金
研究機関同志社大学

研究代表者

小寺 政人  同志社大学, 理工学部, 教授 (00183806)

研究分担者 北岸 宏亮  同志社大学, 理工学部, 教授 (60448090)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードがん細胞選択的毒性 / DNA標的 / DNA二本鎖切断 / 細胞内挙動 / ミトコンドリア損傷 / アポトーシス / がん細胞特異的なミクロ環境
研究実績の概要

昨年までの研究でDNA酸化切断能力を持つamide-tether-cyclen配位子にDNA target としてフェナントレンを導入した新規のconjugate配位子の二核銅錯体を合成した。この配位子の二核銅錯体は、DNA標的を持たないamide-tether-cyclenの錯体に比べてがん細胞選択的細胞毒性が向上した。この結果を受けて2023年度の研究では、DNA targetの役割を明確化するため、DNA targetの種類と鎖長を様々に変えた新たなamide-tether-cyclen/DNA target conjugate配位子を合成し、その二核銅錯体を合成した。これらを用いてPEG鎖の鎖長が短いほどDNA切断活性と細胞毒性が向上すること、標的部位のDNA結合能が高いほどがん細胞選択的細胞毒性が向上することなどを見出した。この成果は第17回バイオ関連化学シンポジウムで発表し、ACS Omegaに論文が掲載された。さらに、amide-tether-dpa配位子のピリジル基の4位に電子求引性のCl基または電子供与性のMeO基を導入したamide-tether-dpa配位子の二核銅錯体を合成し、X線結晶構造、還元剤存在下のROS生成、細胞毒性、細胞内挙動などを測定した。その結果、これらの錯体が置換基の疎水性でERとGolgi体に集積してROS生成で細胞死を誘導することで細胞毒性が大きく向上することを見出した。MeO基を有する錯体は、がん細胞中でのみROSを生成し、がん細胞選択的毒性を示したが、Cl基を有する錯体は、がん細胞と正常細胞の両者でROS生成し、正常細胞選択的毒性を示した。この成果をInorg. Chem.に投稿し、現在revision中である。また、これらの結果について、2023年にシンガポールで開催されたQSCC6で招待講演を行なった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究計画では、がん細胞選択的毒性を示す金属錯体の開発を目指している。がん細胞は正常細胞と異なり、ミトコンドリア損傷を起こしている。このために、がん細胞中では過酸化水素などの活性酸素種(ROS)の濃度が高い、ROS濃度が高いと細胞死につながるのでROSを除去する必要がある。このために、がん細胞はアスコルビン酸やグルタチオンなどのantioxidant濃度が高い。従って、がん細胞中に比較的高濃度で存在するROSやantioxidantを利用してDNAを酸化切断できる金属錯体を開発すれば、正常細胞に比べてがん細胞に対して高い細胞毒性を示すがん細胞選択的な抗がん剤の開発につながると考えた。そこで、phenolの2,6位に環状アミンとしてcyclenやtacnをアミド結合で導入し、4位にDNA標的を導入したamide-tether-cyclen (tacn)/DNA target conjugate配位子を合成した。この配位子ではDNA標的部位として長さの異なるエチレングリコール鎖をリンカーとして、その末端にフェナントレンを導入した。これらの配位子の二核銅錯体を用いてDNA酸化切断や幾つかのがん細胞と正常細胞に対する細部毒性を測定した結果、エチレングリコール鎖の鎖長が短いほどDNA切断活性と細胞毒性が向上すること、またフェナントレンのような高いDNA結合脳を持つ標的部位の導入で、がん細胞選択的細胞毒性が向上することを見出した。実際に1つのエチレングリコールでフェナントレンを結合した最も短いリンカーを持つ錯体は膵臓の癌細胞に対するMTTアッセイのIC50値が11 μMであり、臨床利用されている最も優れた抗がん剤であるシスプラチンの2 μMに近い値である。これは本申請における2年目の研究計画として提案した内容を満足するものであり、ほぼ順調に研究計画が進展していると言える。

今後の研究の推進方策

最も短いエチレングリコール鎖をリンカーとして持つamide-tether-cyclen/DNA target conjugate配位子の二核銅錯体はシスプラチンに匹敵する高い細胞毒性を示すとともに、がん細胞選択的毒性が正常細胞に比べて10倍以上高い選択性を示した。そこで、この高いがん細胞選択的毒性をさらに向上するために、当初の研究計画では、この錯体の配位子に葉酸を化学結合で導入することを計画した。しかし、葉酸は溶解度が低く反応制御が困難であった。そこで、がん細胞が正常細胞よりも多くインテグリンレセプターを持つことに注目し、これを利用して錯体の細胞取込を向上させることを検討する。これを実現するためにamide-tether-cyclen/DNA target conjugate配位子にインテグリンレセプターと特異的に結合するcyclic RGDペプチドを導入する。そこで、本年度はcyclic RGDペプチドを合成し、配位子への導入を検討する。従来はエチレングリコール鎖をリンカーとして二核銅部位とDNA標的を繋いだが、今回は新たにcyclic RGDペプチドを導入するためにその接続部位としてアミノ酸側鎖を利用する。具体的は、cyclic RGDペプチドにマレイミドを導入し、側鎖にアミンやチオール基を持つアミノ酸を予めリンカー部位に導入しておき、両者をマイケル付加によるクリックケミストリーで結合させる。この様にcyclic RGDペプチドを導入した二核銅錯体は、がん細胞に対する細胞取込が促進されるために正常細胞よりもがん細胞選択的に取り込まれると考えられる。さらにリンカー部位にカチオン性アミノ酸を導入し、フェナントレンなどのインターカレーターと共同してDNA親和性を向上させる。これにより、シスプラチンよりも高い細胞毒性を発現させるとともに高いがん細胞選択的毒性を発現を目指す。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Clickable bisreactive small gold nanoclusters for preparing multifunctionalized nanomaterials: application to photouncaging of an anticancer molecule2024

    • 著者名/発表者名
      (1)Kenji Watanabe, Qiyue Mao, Zhouen Zhang, Machi Hata, Masahito Kodera, Hiroaki Kitagishi, Takashi Niwa, Takamitsu Hosoya
    • 雑誌名

      Chemical Science

      巻: 15 ページ: 1402-1408

    • DOI

      10.1039/d3sc04365g

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Roles of DNA Target in Cancer Cell-Selective Cytotoxicity by Dicopper Complexes with DNA Target/Ligand Conjugates2023

    • 著者名/発表者名
      Machi Hata, Jin Ueno, Yutaka Hitomi, and Masahito Kodera
    • 雑誌名

      ACS Omega

      巻: 8 ページ: 28690-28701

    • DOI

      10.1021/acsomega.3c03387

    • 査読あり
  • [学会発表] トリフェニルホスフィンをミトコンドリア標的とするp-cresol-2,6-amide-tether-cyclen誘導体とその二核銅錯体の合成及びがん細胞選択的毒性の評価2024

    • 著者名/発表者名
      高井 隼人・畑 真知・小寺 政人
    • 学会等名
      日本化学会 第104春季年会
  • [学会発表] ポルフィリンDNA標的を持つp-cresol-2,6-amide-tether-tacn配位子とその二核銅錯体の合成とがん細胞選択的毒性2024

    • 著者名/発表者名
      山本 莉子・児玉 愛実・畑 真知・小寺 政人
    • 学会等名
      日本化学会 第104春季年会
  • [学会発表] p-Cresol-Amide-Tether-Cyclen配位子の二核銅錯体によるがん細胞選択的毒性:DNA標的の効果2024

    • 著者名/発表者名
      小橋 寛人・畑 真知・小寺 政人
    • 学会等名
      日本化学会 第104春季年会
  • [学会発表] Cyclenをパーメチル化したphenanthrene introduced phenol-2,6-amide-tether-cyclen配位子の二核銅錯体の合成とがん細胞選択性2023

    • 著者名/発表者名
      藤岡賢志郎・畑真知・小寺政人
    • 学会等名
      日本化学会 第104春季年会
  • [学会発表] Cancer-cell-selective cytotoxicity and DNA double-strand breaks by dicopper complexes with 2,6-bis(amide-tether-X)cresol ligands (X = cyclen and dpa).2023

    • 著者名/発表者名
      Masahito Kodera
    • 学会等名
      6th Japan-Singapore-Taiwan-Hong Kong Quadrilateral Symposium in Coordination Chemistry (QSCC-6)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Burst of DNA Double-Strand Breaks by Dicopper(II) Complexes with a p-Cresol-2,6-Bis(amide-tether-dpa) Ligand via Reductive O2-Activation2023

    • 著者名/発表者名
      Machi Hata, Masahito Kodera
    • 学会等名
      6th Japan-Singapore-Taiwan-Hong Kong Quadrilateral Symposium in Coordination Chemistry (QSCC-6)
  • [学会発表] DNA標的部位を持つ二核銅錯体:がん細胞選択的細胞毒性におけるDNA標的の役割2023

    • 著者名/発表者名
      畑 真知,小寺政人
    • 学会等名
      第17回バイオ関連化学シンポジウム
  • [学会発表] フェナントレンを導入した新規二核化配位子とその二核銅(II)錯体の合成と抗がん活性評価2023

    • 著者名/発表者名
      児玉愛実,畑 真知,人見穣,小寺政人
    • 学会等名
      第17回バイオ関連化学シンポジウム
  • [学会発表] Burst of DNA Double-Strand Break by Dicopper Complexes with p-Cresol-2,6-bis(amide-dpa) and its DNA Target Modified Ligands: Acceleration by a DNA-Targeting 9-Phenanthrenyl Group2023

    • 著者名/発表者名
      Machi Hata, Jin Ueno, Masahito Kodera
    • 学会等名
      第73回錯体化学会討論会
  • [学会発表] 細胞内でROS発生を促進する四核銅錯体の開発:酸素分子の還元的活性化によるDNA二重鎖切断の大きな加速とがん細胞選択的毒性2023

    • 著者名/発表者名
      Zelda FERY,徳永拓人,畑 真知,小寺政人
    • 学会等名
      第56回酸化反応討論会
  • [図書] ロンティア金属錯体触媒化学2024

    • 著者名/発表者名
      (2)小寺政人
    • 総ページ数
      421
    • 出版者
      三共出版
  • [備考] トピックス

    • URL

      https://www.doshisha.ac.jp/news/detail/001-rmJ7vG.html

URL: 

公開日: 2024-12-25  

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