研究実績の概要 |
本研究では、蛍光性色素の光誘起電子移動(PET)、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)および分子内電荷移動(ICT)特性を利用して水分を検出・定量化かつ可視化(蛍光発光による画像化)できる蛍光性水センサーを用いた機能性色素材料を創製し、PET, FRETおよび ICT特性に基づいて水分の検出メカニズムを解明することで、試料中や試料(基板)表面に付着した微量水分から高水分に対応できる水分検出・定量・可視化蛍光分析法(研究概念)の創成を目的とする。本研究を遂行するために、開発したPET型, PET-FRET型および ICT型蛍光性水センサーを1) 種々のポリマーに分散(ドープ)させたポリマーフィルムやコーティング膜を作製、2) 直接ポリマー化させたフィルムを作製、3) 基板表面へ固定化する、ことで土木・農業・建築・医療・医薬・衛生分野に展開可能な水分可視化機能性色素材料を創製し(蛍光性水センサーの社会実装)、4) 本材料の設計指針・開発・研究手法および水分検出・定量限界の評価方法(JISやISOなどの国家・国際規格化)を確立する。本年度は、水を検出・可視化できるPET型蛍光性水センサーモノマーSM-2を開発し、SM-2をPMMAにドープしたSM-2-PMMAフィルムおよびMMAと共重合させたpoly(SM-2-co-MMA)フィルムの作製に成功した。SM-2-PMMAフィルムとpoly(SM-2-co-MMA)フィルムの乾燥-湿潤過程において、モノマー発光強度が可逆的に変化することがわかった。実際に、本蛍光性ポリマーフィルムにおいて、乾燥時では無蛍光性であるが、水蒸気に曝露させた湿潤時では強い青色蛍光発光を目視することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究成果において、新規に分子設計・開発したPET型およびPET-AIE型蛍光性色素が、溶液中において微量水分から高水分量を検出・定量・可視化可能な蛍光性水センサーであることを実証し、1H, 11B NMR測定、単結晶X線構造解析および分子軌道計算から水分の検出メカニズムを解明することができた。さらに、これらの蛍光性水センサーをポリスチレン(PS)やポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのポリマーに分散(ドープ)させたポリマーフィルムやコーティング膜の作製、および蛍光性水センサーモノマーとMMAとを共重合させたポリマーとそのフィルムの作製に成功し、乾燥-湿潤過程において発光強度が可逆的に変化することがわかった。このように、本蛍光性水センサーが溶液中の水分のみならず水蒸気・水滴を検出・可視化できる機能性色素材料であると実証することができ、研究目的の1)と2)を達成したため(New, J. Chem., 2022, 46, 12474-12481; RSC. Adv., 2022, 12, 25687-25696; New J. Chem., 2023, 47, 2711-2718)。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に開発した蛍光性水センサーフィルムと比較するために、ビニル(vinyl)基を導入した蛍光性水センサーモノマーを合成し、それらの単独重合およびスチレンと様々な比率で共重合させることで、ポリマー鎖の種類(極性・親水性・疎水性・立体性)やセンサー濃度(凝集状態や分子量Mn・Mw)を調整したポリマーを作製する。蛍光性水センサーモノマーおよびポリマーの溶液を調整し、ポリマーフィルムやコーティング膜を作製する。高分子マトリックス中における蛍光性水センサーと水分子との反応性を速度論的・熱力学的観点から究明し、蛍光性水センサー材料の水分検出メカニズムを解明する。一方、乾燥⇔湿潤に伴う蛍光性水センサーの分解やフィルムの破壊を各種測定(TG-DTA, DSC, FT-IR, XRD, SEM-EDX, EPMA, ESCAおよび各種の)および顕微鏡観察から調査し、乾燥⇔湿潤における蛍光性水センサー材料の可逆性・耐久性の改善に資するポリマー粒の種類や重合方法に関する有用な知見を取集する。得られた知見を材料設計にフィードバックし、ポリマーフィルムに適した蛍光性水センサー骨格(置換基や発光母体)の構築、蛍光性水センサーの重合ポリマーフィルム作製のための最適なモノマー構造や重合条件の設定を図る。さらに、固定基としてアルコキシシラン-Si(OR)3を導入した蛍光性水センサーを合成し、その加水分解・重縮合反応(ゾル・ゲル法)により、ガラス基板やITO(Indium Tin Oxide)基板上に蛍光性水センサーのポリシルセスキオキサン薄膜を作製する。蛍光性水センサーの基板への固定化は上述のポリマーフィルムやコーティング膜と同様に各種測定・観察から評価し、センサーの固定基数や重縮合条件が、固定化センサー数や分散に及ぼす影響に関する知見を得る。
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