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2023 年度 実績報告書

動的超原子価結合を基盤とした刺激応答性π共役系高分子の創出と理論設計

研究課題

研究課題/領域番号 22H02130
配分区分補助金
研究機関京都大学

研究代表者

権 正行  京都大学, 地球環境学堂, 助教 (90776618)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード高分子合成 / 超原子価 / 共役系高分子 / 動的結合 / ヘテロ元素
研究実績の概要

本年度の研究では、超原子価スズ化合物において、スズのルイス酸性がアゾベンゼン上の窒素原子とスズ間の結合距離に関係性があるのではないかという実験結果を得た。計算により、配位子側には電子供与性置換基を、スズ上には電子求引性置換基をそれぞれ導入することで、結合力を高めつつ安定に刺激応用性を実現可能であるという予測結果を得た。さらに、スズ以外の元素である、ゲルマニウム、アンチモンについて実際に電子供与性置換基を導入したアゾベンゼン配位子が安定性向上に有効であることが分かり、化合設計指針に役立つことを示した。
材料にかかる負荷を検出する刺激応答性の研究についても、結合定数が数万程度あるフェナントロリンを用いることで、超原子価スズ化合物にフェナントロリンが配位した状態で薄膜化が可能であることを見出した。また、フェナントロリンは薄膜状態では熱により不可逆的に脱離可能であることが分かり、刺激を記録することができた。つまり、従来の目標である刺激応答性のネットワーク材料化は結合力の増強が鍵であり、そのための知見を深めることができた。
表面修飾に関する研究では、スズが吸着した材料にX線光電子分光法(XPS)を照射することで、スズの配位状態に由来するピークを観測可能であることを見出した。また、本手法は既に企業との連携で社会実装が成され、様々な方面で役立つことが示されてきている。学術的にメカニズムを明らかにするため、更なる検討を重ねる予定である。
以上、超原子価化合物の配位柔軟性を利用した動的結合の構築は予定以上の進捗を見せ、従来材料とは異なる元素の性質を利用し、それらをπ共役系の変化として信号増幅するシステムの構築が可能になってきていると言える。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

1.配位力・結合力の理論予測方法の確立 超原子価スズ化合物において、スズのルイス酸性が強くなることでアゾベンゼン上の窒素原子との配位力が強くなり、結果的に結合距離が短くなるという関係性が見られた。求核剤が同一の場合は従来法である、求核剤とスズ原子との結合距離で結合力を評価することができるが、アゾベンゼンとスズの結合距離での評価を加えることにより、広範な基質に対する結合力を予測できる可能性が見出された。加えて、スズ化合物の合成法についても従来は市販品を用いるのみであったが、均等化反応を用いてスズ試薬を自在に合成できる方法を研究室内で確立し、ライブラリーの構築が可能と期待できる。さらに、ビスマスに加え、アンチモンや鉛など様々な重元素が配位した超原子価化合物を合成できることも分かり、元素の性質を明らかにすることも期待できる。
2. 材料にかかる負荷の高感度可視化 結合定数が数万程度あるフェナントロリンを用いることで、超原子価スズ化合物にフェナントロリンが配位した状態で薄膜化することに成功した。従来は、揮発性の蒸気を用いていたため、薄膜を放置するとガスが脱離していたが、フェナントロリンは固体であるため、配位した状態で安定な薄膜を作製できた。この薄膜に熱による刺激を加えることで、紫色→青緑色に薄膜の色彩を変化させることに成功した。この変化は不可逆的であり、熱という材料にかかる負荷を記録することができた。
3. 材質の認識と表面修飾 スズが吸着した材料にX線光電子分光法(XPS)を照射することで、スズの配位状態に由来するピークを観測した。また、本手法は既に企業との連携で社会実装が成されているが、論文化を行っていないため、論文化に向けた情報収集や適用範囲を広げるためのライブラリー構築に向けた戦略を立てるに至った。
以上、新しい知見が数多く得られ、全体的に予想以上の進捗が得られていると言える。

今後の研究の推進方策

1.配位力・結合力の理論予測方法の確立 スズ上に様々な置換基を導入する合成的手法により多数の化合物を合成することで、電子求引性基の強さとルイス酸性度の高さ、結合距離の長さに対して、実測値と理論予測地との相関関係を明らかにする予定である。配位対象としては、安定に配位が可能であることが分かっているDMSOに加え、低いルイス酸性でも数値化が可能な強力な二座配位子であるエチレンジアミンやフェナントロリンを用いて検証する。ビスマス、アンチモン、鉛、といった他の元素にも適用し、元素の違いを明らかにする。
2.材料にかかる負荷の高感度可視化 スズ上の置換基に強力な電子求引性基を導入することで結合力を上昇させ、さらにホウ素錯体化と併用することで、更なる電子求引性、刺激応答性の向上を狙う。これにより、ネットワーク化に利用できる官能基の選択幅が広がり、例えば、アルコールのような比較的多官能基化が容易なものでも十分材料化が可能になると期待できる。この効果を利用し、実際に光吸収や発光色変化によって刺激応答が可視化可能なネットワーク材料の創出を試みる。
3.材質の認識と表面修飾 未修飾の金属酸化物や修飾率が判明している金属酸化物に対して、スズ試薬の吸着実験を行うことで、表面修飾の有用性を実証し、論文化することを目指す。既に、実践的には良好な相関関係が得られていることから、様々な素性の分かっている検出対象を多く選択することで、汎用性と信頼性の高いデータを得ることを目指す。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Selective modulation of energy levels of frontier orbitals in solid-state luminescent boron-fused azomethine polymers with orthogonal orientations to the main chains2023

    • 著者名/発表者名
      Gon Masayuki、Kanjo Misato、Ohtani Shunsuke、Tanaka Kazuo、Chujo Yoshiki
    • 雑誌名

      Polymer Chemistry

      巻: 14 ページ: 2893~2901

    • DOI

      10.1039/D3PY00335C

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Stimuli-Responsive π-Conjugated Polymers Showing Solid-State Emission Based on Boron-Fused Azomethine Complexes with NNO-Tridentate Ligands2023

    • 著者名/発表者名
      Kanjo Misato、Gon Masayuki、Tanaka Kazuo
    • 雑誌名

      ACS Applied Materials & Interfaces

      巻: 15 ページ: 31927~31934

    • DOI

      10.1021/acsami.3c06277

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Facile Preparation of Near Infrared-Luminescent Protein Complexes with Conjugated Polymers Consisting of Boron Azobenzene Units2023

    • 著者名/発表者名
      Yoo Dahye、Nakamura Masashi、Kanjo Misato、Gon Masayuki、Watanabe Hiroyuki、Kita Hiroshi、Tanaka Kazuo
    • 雑誌名

      Bulletin of the Chemical Society of Japan

      巻: 96 ページ: 659~662

    • DOI

      10.1246/bcsj.20230083

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Enhancement of Near-Infrared Emission Based on Hypervalent Germanium(IV)-Fused Azobenzene Compounds with Electron-Donating Groups2023

    • 著者名/発表者名
      Gon Masayuki、Yaegashi Misao、Tanaka Kazuo
    • 雑誌名

      Bulletin of the Chemical Society of Japan

      巻: 96 ページ: 778~784

    • DOI

      10.1246/bcsj.20230120

    • 査読あり
  • [雑誌論文] UV-to-NIR Wavelength Conversion of π-Conjugated Polymers Based on Pyrene-Substituted Boron-Fused Azobenzene Complexes2023

    • 著者名/発表者名
      Nakamura Masashi、Yamauchi Momona、Gon Masayuki、Tanaka Kazuo
    • 雑誌名

      Macromolecules

      巻: 56 ページ: 7571~7578

    • DOI

      10.1021/acs.macromol.3c01124

    • 査読あり
  • [学会発表] Evaluation of Optical and Stimuli-Responsive Properties Based on Seven-Coordinated Hypervalent Tin(IV) Compounds2024

    • 著者名/発表者名
      Masayuki Gon, Yusuke Morisaki, Kazuo Tanaka
    • 学会等名
      日本化学会第104春季年会(2024)
  • [学会発表] 超原子価ケイ素化合物の幾何構造を利用したπ共役系の狭エネルギーギャップ化戦略2023

    • 著者名/発表者名
      権 正行、田中一生
    • 学会等名
      第72回高分子学会年次大会
  • [学会発表] Synthesis and Optical Properties of π-Conjugated Polymers Containing Hypervalent Compounds2023

    • 著者名/発表者名
      Masayuki Gon, Kazuo Tanaka
    • 学会等名
      The 13th SPSJ International Polymer Conference (IPC 2023)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 超原子価スズ化合物の7配位化と高分子薄膜アミンセンサーへの応用2023

    • 著者名/発表者名
      権 正行、森崎祐介、田中一生
    • 学会等名
      第42回無機高分子討論会
  • [学会発表] Synthesis and Evaluation of π-Conjugated Systems Containing Hypervalent Compounds2023

    • 著者名/発表者名
      Masayuki Gon, Kazuo Tanaka
    • 学会等名
      The 15th International Kyoto Conference on New Aspects of Organic Chemistry
    • 国際学会
  • [学会発表] Development of a Novel Strategy to Control Energy Levels of π-Conjugated Systems by Hypervalent Compounds2023

    • 著者名/発表者名
      Masayuki Gon
    • 学会等名
      2023 Global Young Scholars' Forum at CUHK-Shenzhen
    • 国際学会

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公開日: 2024-12-25  

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