研究課題/領域番号 |
22H02131
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
中 建介 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 教授 (70227718)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 一重項酸素 / ヒ素 / 共役系高分子 / 光分解性 |
研究実績の概要 |
研究実施者はヒ素元素含有共役系高分子が、光照射によって一重項酸素を効率よく発生し、その量子収率は単独の共役系高分子増感剤では最も高い54%であり、さらに一重項酸素が発生するにも関わらず24時間経過しても全く分解が認められないという極めて優れた耐性を発現することを見出した。本研究では、本成果を基盤とし、分子構造と一重項酸素発生能および劣化耐性との関係の体系的データを取得することで高効率一重項酸素発生能と著しい一重項酸素耐性や光耐性の詳細をヒ素原子の役割の観点から明らかにすることを目的とする。 2023年度はヒ素含有共役系高分子では従来になかったドナーアクセプター型の共役系高分子として長鎖アルキル基を導入したジチエノアルソールモノマーとベンゾチアジアゾールまたはベンゾオキサチアゾールとの共重合体を合成し特性評価を行った。その結果、これまでに報告された類似の共役系高分子よりもはるかに長波長領域である近赤外で発光することを見出した。さらに630nmの近赤外光の照射で一重項酸素を発生させられることがわかり、任意の波長を利用できる増感剤設計指針を見出すことができた。また、ヒ素元素含有共役系高分子の劣化耐性と分子構造との関係の体系的データを取得する目的で種々アルソール誘導体に大気下でUV照射を行うことで、ある種のアルソール誘導体はヒ素成分を含む分解物として、フェニルアルソン酸を回収することに成功し、その光分解機構について詳細を明らかにした。また、ヒ素に加えて硫黄やセレン、またはホウ素を含有したヘテロ環化合物はヒ素の結合周りの柔軟性に由来して光励起による構造緩和が効果的に進行し、これによって特異な発光特性を示すことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
種々の構造を有するヒ素含有共役系モノマーを開発し、これらとの共重合によって様々な高分子の合成を行い、一重項酸素発生効率と分子構造との関係の体系的データを取得するという目的に対して、これまでに開発した長鎖アルキル基を導入したジチエノアルソールモノマーを用いてアクセプター性に強い共役系ユニットであるベンゾチアジアゾールまたはベンゾオキサチアゾールとの共重合を行った。得られた高分子は溶解性に優れ、それらに対して光照射を検討したところ一重項酸素を発生することがわかった。しかし、それらの量子収率は9%と以前に見出したヒ素元素含有共役系高分子の54%よりは低い値であった。以前のヒ素元素含有共役系高分子では509 nmの光を照射したのに対して、 630nmの近赤外光の照射で一重項酸素を発生させられる材料が得られたことは特筆すべきものである。また、ヒ素元素含有共役系高分子の劣化耐性と分子構造との関係の体系的データを取得する目的に対しては、トリフェニルアルソールをシクロアルカンで縮環させた新規アルソール誘導体を合成し、その構造と安定性および光物性との関係を調査した。アルソールの酸化的開裂反応は、空気存在下での光照射によって効率的に促進された。これはヒ素の重原子効果によって引き起こされる一重項酸素の発生が、酸化的開裂反応を引き起こす上で重要な役割を果たしていることを明らかにした。一方で、これまで24時間光照射を経過しても全く分解が認められないヒ素元素含有共役系高分子はこの分解過程を抑制する構造であることが示されたことから、ヒ素含有化合物の光劣化耐性メカニズムを解明するための重要な手がかりが得られたと考えられる。よってこれらから総合的におおむね順調に進展したと判断した
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今後の研究の推進方策 |
1)これまでにアルサフルオレンなどの縮環型アルソールと比較して非縮環型アルソールは安定性に課題があったが、アルソールの3,4位にシクロアルキル基を導入すると安定性が向上することを見出している。そこで3 ,4位にシクロアルキル基を導入した多彩なアルソール誘導体を合成し、それらを組み込んだ共役系高分子を合成する。また、ジチエノアルソール(DTA)とアクセプター性の強いユニットであるベンゾチアジアゾールおよびベンゾオキサジアゾールモノマーとの共重合体が近赤外発光を示すことも見出している。これらを用いて一重項酸素発生効率と分子構造との関係および安定性に関する体系的データを取得する。予想した性能向上が見られない場合でも発光・電気化学特性等の評価データを取得することで、発光材料等の新たな機能・応用展開を図る。 2)上記で検討した化合物群に対しても引き続き、種々の波長の光照射 実験、加熱および活性ラジカル種に対する反応性を検討し、その変化を紫外可視吸収スペクトル測定等で評価することで劣化耐性発現にヒ素原子の役割を明らかにする。光照射や加熱によって生じる未知の短寿命ラジカル中間体の追跡や理論計算を学内共同研究で進めることでヒ素原子の特徴と特異性を明らかにし、リンやアンチモンやその他の後周期元素含有共役系化合物についてその知見を系統的に拡大させる。 3)一般的な低分子の色素増感剤を光酸化触媒として利用する場合は、生成物と光酸化触媒の分離に煩雑は工程が必要であるが、高分子系色素増感剤を用いるとより簡便に触媒のリサイクルが可能である。そこでこれまで得られた含ヒ素共役系共役系高分子を用いた光触媒への展開を検討することで既存の材料では達成できない長期利用可能な超長寿命性を有する有用な有機系光触媒の創出を目指す。具体的には水からの水素生成や酸素からの過酸化水素生成が可能な高分子光触媒を開発する。
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