• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2023 年度 実績報告書

導電性高分子からなる真の熱電エアロゲルに関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 22H02136
配分区分補助金
研究機関東京農工大学

研究代表者

下村 武史  東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40292768)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード熱電変換 / 導電性高分子 / PEDOT:PSS / エアロゲル / 環境発電
研究実績の概要

熱電効果では高温側で励起され、エネルギーを得たキャリアを低温側に輸送する電流をよく流す半導体である一方で、高温側から低温側への流れる熱流を遮断する断熱体であることが理想的である。そこで、高い熱電性能が報告されている導電性高分子からなり、10 nmサイズのメソ孔をもち、体積比率で95%以上の気泡を含み、一般的なシリカエアロゲルにも劣らない300 m2 g-1以上の大きな比表面積をもつことで、熱伝導率は0.03 W m-1 K-1程度と発泡スチロールにも匹敵する低い熱伝導率を有する真の熱電エアロゲルを作製し、その熱電特性、力学特性を評価し、熱電材料としての適性を実証することを目的とした。また、この熱電エアロゲルの応用として、環境発電モジュール、超軽量クーラーボックス、熱電イオンフィルターとしての性能評価・実証を行うことも目指す。
前年度、作製に成功した高い比表面積、低い熱伝導率をもつポリ(3,4-ジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)エアロゲルの耐熱性を調査したところ、200°Cを超える高温においても、多孔構造が維持されることがわかった。また、その熱電特性において、導電率の温度依存性は200°Cを超える高温までほぼなく、縮退系の導電特性を示すこと、ゼーベック係数も縮退系の温度依存性と矛盾しないことを確認した。この特性の発現はゲル化のための架橋時に発現していることを明らかにした。また、PEDOTのポリビニルアルコール(PVA)との化学コンポジットにより、800%程度の伸長にも耐えるゲルを作製することができた。
CO2の熱電フィルター効果の実証を目指し、CO2環境下での熱電特性評価棟を行っているが、現時点では選択的な吸着による熱電特性への影響は十分に観測されていない。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

ポリ(3,4-ジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)を用いたエアロゲルの作製には成功し、熱電特性の発現に加えて、エアロゲル特有の低熱伝導率を確認することができた。また、その作製において得られた知見を基に力学特性の優れたPEDOTゲルの作製にも成功した。このゲルは200℃以上の高温にも耐えることができ、しかも縮退系に分類される導電率の温度依存性を示すことを明らかにした。また、ゼーベック係数は値自体大きくはないが、温度の対数に対して線形の依存性を示し、高温でも動作は可能であったため、温度差をつけることにより電圧をかせぐことができるため、10セル程度を直列接続すれば、30 mV程度を得られることも明らかとなった。現在、昇圧回路を用いてLEDの点灯を目指している。また、マトリクスを用いて、伸張性の高い導電性高分子ゲルの作製にも成功した。以上から、熱電エアロゲルの実現と性能の実証に関しては順調に進展していると考えている。
しかし、このエアロゲルと気体との相互作用による熱電効果の変調、およびその変調を利用した熱電フィルターの実証も本研究の目的の一つであるが、まだ、そのための方法論を確立するには至っていない。現在、気体をCO2から酸化還元性を考慮したO2やアンモニアに変更し、再度、その実証を目指しているが、まだ、その方法論を確立できたとはいえず、この目標に関しては進捗がやや遅れていると考えている。

今後の研究の推進方策

熱電フィルターの実証を行うため、これまで行ってきたCO2ではなく、今後は酸化性の高いO2、還元性の高いアンモニア、および確実に効果が得られると思われる水蒸気において、まず効果を実証し、その知見をもとに、元々のターゲットとしているCO2に適用していくことにする。現状の設備でO2は濃度を変えながら熱電特性を評価することが可能であるが、特にアンモニアは自由に濃度を変更することは困難な環境であるため、低濃度のみで実施する。また、水蒸気も安定した湿度制御は困難であるが、実施は可能と考えている。
エアロゲルはPEDOT:PSSで構成されているため、ゼーベック係数が小さく、電流は比較的得ることができるが、電圧は十分に得ることが困難であることが明らかとなった。そこで、複数のセルを直列に接続して、かつ昇圧回路を接続して、LEDの点灯を行う。架橋による効果で高分子としては特異的に高温で動作が可能であること、および低熱伝導率で比較的フレキシブルで自由な形状をつくることができるエアロゲルという形状の特徴を生かしたデモストレーションを実施する。例えば、熱水パイプの断熱剤としての動作などが考えられる。

備考

令和四年度繊維学会賞受賞(下村 武史)
繊維学会年会ポスター書受賞(重永 絢子)

  • 研究成果

    (23件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] <scp>MEH‐PPV</scp>/<scp>SBS</scp> composite films: Localization and luminescence properties of conductive polymers with microphase separation2023

    • 著者名/発表者名
      Yuan Zhongming、Yamamoto Hiroko、Kanehashi Shinji、Shimomura Takeshi
    • 雑誌名

      Polymers for Advanced Technologies

      巻: 35 ページ: e6209

    • DOI

      10.1002/pat.6209

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 導電性高分子ナノファイバー:フレキシブル・エネルギーデバイスへの応用を目指して2023

    • 著者名/発表者名
      下村武史
    • 雑誌名

      繊維学会誌

      巻: 79 ページ: 240-245

  • [学会発表] ナノファイバーネットワークをもつ高伸長性PEDOT/PVAハイドロゲルの導電性評価2024

    • 著者名/発表者名
      下村 武史、重永 絢子、兼橋 真二
    • 学会等名
      第71回応用物理学会春季学術講演会
  • [学会発表] MEH-PPV/SBSコンポジットの導電性高分子の局在 と発光特性2023

    • 著者名/発表者名
      元 鐘鳴、山本 紘子、下村 武史
    • 学会等名
      第72回高分子学会年次大会
  • [学会発表] P3HTナノファイバークライオゲルの熱電変換特性と巨大ゼーベック効果2023

    • 著者名/発表者名
      下村 武史、礒 彩香、兼橋 真二
    • 学会等名
      第72回高分子学会年次大会
  • [学会発表] 階層構造を有した PEDOT/PVA ハイドロゲルの物性評価2023

    • 著者名/発表者名
      重永 絢子、島村 圭祐、下村 武史
    • 学会等名
      第72回高分子学会年次大会
  • [学会発表] ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン)/SBSコンポジットフィルムの 力学・発光特性2023

    • 著者名/発表者名
      米良 愛結、元 鐘鳴、下村 武史
    • 学会等名
      第72回高分子学会年次大会
  • [学会発表] ククルビットウリル側鎖をもつハイドロゲルのホスト-ゲスト相互作用を活用したイオン熱電効果2023

    • 著者名/発表者名
      五百川 創志、蒲谷 勇樹、木戸脇 匡俊、下村 武史
    • 学会等名
      第72回高分子学会年次大会
  • [学会発表] 導電性高分子ナノファイバーを用いたフレキシブルデバイスの開発とエネルギーデバイスへの応用2023

    • 著者名/発表者名
      下村 武史
    • 学会等名
      2023繊維学会年次大会
    • 招待講演
  • [学会発表] P3HTナノファイバークライオゲルの熱電変換および巨大ゼーベック効果2023

    • 著者名/発表者名
      下村 武史、礒 彩香、兼橋 真二
    • 学会等名
      2023繊維学会年次大会
  • [学会発表] ナノフィブリルネットワークを有したPEDOT/PVA ハイドロゲルの構造・物性評 価2023

    • 著者名/発表者名
      重永 絢子、島村 圭祐、下村 武史
    • 学会等名
      2023繊維学会年次大会
  • [学会発表] SBS中でのポリ(9,9-ジオクチルフルオレン) の分散挙動2023

    • 著者名/発表者名
      米良 愛結、元 鐘鳴、下村 武史
    • 学会等名
      2023繊維学会年次大会
  • [学会発表] 高分子可塑化膜を用いたイオン熱電変換材料2023

    • 著者名/発表者名
      藤谷 薫、鈴木 千陽子、下村 武史
    • 学会等名
      2023繊維学会年次大会
  • [学会発表] 熱電ハイドロゲルに対するククルビットウリル側鎖の導入と熱電性能評価2023

    • 著者名/発表者名
      五百川 創志、蒲谷 勇樹、木戸脇 匡俊、下村 武史
    • 学会等名
      2023繊維学会年次大会
  • [学会発表] 環状ホスト分子を官能基として組み込んだハイドロゲ ルによるイオン熱電変換2023

    • 著者名/発表者名
      五百川 創志、蒲谷 勇樹、木戸脇 匡俊、下村 武史
    • 学会等名
      第72回高分子討論会
  • [学会発表] ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の電気泳動法による成膜と電気特性評価2023

    • 著者名/発表者名
      大山 敦史、臼井 博明、下村 武史
    • 学会等名
      2023繊維学会秋季研究発表会
  • [学会発表] 超臨界乾燥によるPEDOT:PSSエアロゲルの多孔性および熱電特性評価2023

    • 著者名/発表者名
      後藤 春香、兼橋 真二、荻野 賢司、下村 武史
    • 学会等名
      2023繊維学会秋季研究発表会
  • [学会発表] シクロデキストリン包接解離平衡を利用したイオン熱電変換2023

    • 著者名/発表者名
      蒲谷 勇樹、木戸脇 匡俊、下村 武史
    • 学会等名
      2023繊維学会秋季研究発表会
  • [学会発表] ナノファイバー凍結乾燥体のキャリア種と熱電特性の相関2023

    • 著者名/発表者名
      礒 彩香、佐藤 康平、下村 武史、佐藤 哲也、勝又 まさ代
    • 学会等名
      2023繊維学会秋季研究発表会
  • [学会発表] ナノフィブリルネットワークを有した高伸長性PEDOT/PVAハイドロゲルの導電性評価2023

    • 著者名/発表者名
      重永 絢子、島村 圭祐、下村 武史
    • 学会等名
      2023繊維学会秋季研究発表会
  • [学会発表] P3HTソフトアクチュエーターの性能向上2023

    • 著者名/発表者名
      鈴木 拓海、吉井 友哉、村沢 義寛、下村 武史
    • 学会等名
      2023繊維学会秋季研究発表会
  • [学会発表] 高分子マトリックスの相転移と熱電特性の関係2023

    • 著者名/発表者名
      藤谷 薫、鈴木 千陽子、下村 武史
    • 学会等名
      2023繊維学会秋季研究発表会
  • [備考] 下村研究室ホームページ

    • URL

      http://web.tuat.ac.jp/~simo/

URL: 

公開日: 2024-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi