研究課題/領域番号 |
22H02141
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
三輪 洋平 岐阜大学, 工学部, 教授 (10635692)
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研究分担者 |
宇田川 太郎 岐阜大学, 工学部, 准教授 (70509356)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 自己修復 / フッ化アルキル / ポリアクリル酸メチル / ポリアクリル酸エチル / 架橋 |
研究実績の概要 |
自己修復性ポリマー材料の設計における大きな目標のひとつは、力学強度と自己修復速度の両立である。しかしながら、一般的にはこれらの特性は二律背反の関係にあり、その両立は容易ではない。本研究では、アクリル酸メチルとアクリル酸エチルのランダム共重合体(PEMA)に対して4 mol%のフッ化アルキル側鎖を導入したところ、エラストマーが得られ、この試料が比較的高い力学強度を持つ一方で、きわめて優れた自己修復性を示すことを見出した。このエラストマーでは、フッ化アルキル側鎖が球状のナノドメインを形成する結果、ポリマーが物理的に架橋される。このフッ素成分によって架橋されたエラストマーは、約2MPaの比較的高い破断強度を持つ一方で、試料片を切断したとしても、切断面どうしを接触させた瞬間に500グラム以上の荷重を支えることができるほど強力に接合する。さらに15分以内には切断前の力学強度を回復することがわかった。これは、PEMAが粘着剤などにも使用されるほどに凝集力の高いポリマーであることに起因する。また、本研究では、自己修復性を維持したままでの力学強度の更なる向上を目指し、このポリマーの片末端にポリスチレン(PS)を連結したブロック共重合体を合成した。PSの含有量を10wt%程度としたところ、PSとフッ化アルキル側鎖の両方が、それぞれサイズの異なった球状のナノドメインを形成することがわかった。すなわち、フッ化アルキル側鎖のナノドメイン形成による物理架橋に加えて、PSのナノドメイン形成にともなう物理架橋の追加による材料の力学向上を期待した。そうしたところ、得られたブロック共重合体は約4MPaの破断強度を示し、期待どおりの力学強度の向上が見られた。また、切断して15分間自己修復をさせた試料の破断強度は1MPa程度であった一方で、1時間後には約4MPaの破断強度を示し、材料の完全な修復が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度開発したフッ化アルキル側鎖のナノドメイン形成を利用して動的に架橋したエラストマーについて、その力学強度の向上を目指し、ポリスチレンとのブロック共重合体化をおこない、期待通りの成果が得られた。また、当初計画していた、長鎖アルキル側鎖のナノドメイン形成を利用した自己修復性エラストマーに関しては、目論見が外れて、力学強度的に弱い試料しか得られなかった。一方で、ポリアクリル酸メチルが優れた力学強度と自己修復性を持つことを発見することができた。成果の一部について学会発表もおこなった。予定していた成果を得ることができたことから、順調に研究は進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、アクリル酸エチルとアクリル酸メチルのランダム共重合体に少量のフッ化アルキル側鎖を導入したエラストマーに関して、その力学強度の向上を目指し、その末端に室温でガラス状ポリマーであるポリスチレン(PS)を結合したブロック共重合体を合成した。手はじめに、PSの割合が比較的少ないもの(約10wt%)を合成したところ、PSを付加しない場合に比べて倍以上の破断強度の増加が観察された。自己修復速度に関しては、若干の低下が見られたものの、それでも1時間後には切断した試料片の完全な修復が見られた。そのため、このブロック共重体化は良い方法であると考えられる。本年度は、分子量や組成の異なったブロック共重合体を数種類合成し、それらの比較によって、材料の力学強度の向上と、自己修復速度の両立のために最適な分子量や組成の探索を進める。また、フッ化アルキル側鎖の代わりに長鎖アルキル側鎖を導入したアクリルポリマーを約4mol%含有した合成し、その構造と力学特性について評価した。長鎖アルキル側鎖に関しても、フッ化アルキル側鎖と同様に球状のナノドメイン構造の形成が観察された。しかしながら、得られた材料は力学的にとても弱く、ナノドメイン形成にともなう補強効果はほとんど見られなかった。これは、長鎖アルキル側鎖のナノドメインはポリマーを物理的に架橋する力が弱いためだと考えられる。一方で、この材料の比較として評価していた、何の側鎖も導入していないポリアクリル酸メチル(PMA)が数MPaの比較的大きな破断強度を示す一方で、室温で優れた自己修復性を示すらしいことがわかってきた。そこで、本年度は、このPMAの自己修復性の評価についても進める計画である。
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