研究課題
Eu(III)配位高分子[Eu(hfa)3(m-dpb)]n(hfa:ヘキサフルオロアセチルアセトナート、m-dpb:1,3-ビス-(ジフェニルホスホリル)ベンゼン)の粒径制御合成に成功した。 このEu(III)配位高分子はカチオン性CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)およびアニオン性SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)界面活性剤を使用し、水性ミセル溶液中で[Eu(hfa)3(H2O)2]およびリンカーm-dpbリガンドの錯体化によりEu(III)配位粒子を合成した。[Eu(hfa)3(m-dpb)]n の粒子サイズと形態を走査型電子顕微鏡 (SEM) 測定を使用して観察した。Eu(III)配位高分子のサイズはCTAB濃度の増加により徐々に減少した。 また、形成される結晶構造はミセル系はバルク配位高分子とは異なることが明らかとなった。合成されたEu(III)配位粒子とEuバルク配位高分子はUV照射下で4fー4f遷移に基づく赤色発光を示した。その4f-4fの発光量子収率、放射速度定数(kr)、非放射速度定数(knr)は発光寿命と発光スペクトルを用いて見積もった。Eu(III)配位粒子のkr値はEuバルク配位高分子のkr値とほぼ同じであった。 一方、Eu(III)配位粒子のknr値はEuバルクのknr値よりもはるかに小さく、大きな発光量子収率を与えることがわかった(Eu(III)配位粒子の発光量子収率=91%)。 これらの結果は、ミセル系で形成されたEu(III)配位粒子の結晶構造の knr 値が、Eu(III)配位粒子で観察される他の結晶構造の knr 値よりも小さいことを示している。 発光寿命の急激な変化は、結晶形状の異方性などの結晶構造に起因すると考えられる。この研究では、Eu(III)配位粒子のサイズ制御と発光特性の密接な関係を初めて実証した。
1: 当初の計画以上に進展している
ミセル反応場を用いた希土類配位高分子のナノ粒子化に成功し、その粒子の形態変化と光物性の関係を初めて明らかにすることができた。特に、希土類配位高分子の形態変化によって発光の無放射失活速度が変化する現象を観察できたことは極めて重要である。発光機能を高めるためには無放射失活速度を低くことが重要であり、今回の研究成果によって従来では発見困難であった新しい発光体設計に大きな指針を与えるものとなった。この研究成果を学術論文に投稿し、高い評価で採択された(論文のCover Pictureに選出)。今回の研究成果は分子結晶の形態が光物性に大きな影響を与えていることを示した初めての例であり、学術研究を大きく進展することに成功した。さらに、今回成功したミセル反応場での配位高分子合成では、反応時に様々な添加物を入れることが可能である。例えば、結晶成長を促進および阻害する分子をミセル反応場に導入することで、結晶形態(結晶系、結晶サイズ、結晶表面構造など)の詳細制御が可能になると考えられる。以上のことから、ミセルを反応場とする希土類配位高分子の合成は発光体設計において極めて有効であることがわかった。このことから、本研究は当初の計画以上に進展していると判断する。
本研究「希土類配位粒子」をさらに拡張するため、ミセル法の拡張と新規粒子合成法の検討を行う。ミセル法の拡張では、界面活性剤と混合できるアルキルアルコールをミセル反応場に添加し、Eu(III)配位粒子の結晶サイズ制御を行う。また、ミセルに混合する無機塩効果も検討し、ミセル法を用いた希土類配位高分子の結晶成長の詳細を検討する。さらに、ミセル反応場の考え方を拡張した新規な反応場を検討する。具体的には、半導体ナノ粒子の単一前駆体合成(シングルソースプレカーサ法)の溶媒として用いられるアルキルホスフィンオキシドを反応場として用いた検討を行う。合成されたバルク状のEu(III)配位高分子をトリブチルホスフィンオキシド(tbpo)中で加熱反応することで結晶サイズの減少(クリスタルカット)を行う。得られたキラルEu(III)配位高分子のナノ構造および表面構造制御による光物性との相関検討を行う。得られた希土類配位粒子を蒸留水に分散させて遠心分離し、沈殿粉体をXRDおよび光物性によって評価(発光スペクトル、発光寿命、CPL測定)する。Eu(III)配位高分子の表面および粒径変化をSEM、XRDおよび光物性によって評価する。また、有機溶媒への分散性についてはDLSおよびUV-VIS吸収スペクトルによって評価する(目標直径サイズ<10nm)。Eu(III)配位粒子の表面機能化については、新手法クリスタルカットが極めて有効と考える。この新しい検討を行うことで、Eu(III)配位粒子の学術研究を深める。
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