研究実績の概要 |
エレクトロクロミック(EC)素子は環境調和型デバイスとしてその応用展開が急速に進展し,注目を集めている。本研究では, 単一ナノ粒子光学特性と析出粒子形態の実験的な相関結果に, 理論計算を用いた包括的プラズモニックナノ粒子解析法を加え, 銀ナノ粒子の可逆的精密任意形態制御論を確立, 銀電解析出デバイスを今まで以上に深化させた省エネ型フルカラー表示・調光・光学素子の開発を目的としている。 令和4年度においては, 1)暗視野顕微鏡を用いた単一電析銀ナノ粒子の光学特性の詳細な解析と, 2)銀ナノ粒子の表面修飾材として高分子を複合化し, 粒子形態と光学特性に与える影響の検討を主要な目的とした。1)に関して, 暗視野顕微鏡に, 本研究費により導入したハイパースペクトルカメラを搭載し, EC素子駆動中における銀ナノ粒子の光学特性その場観察を実行した。また, その結果をAFM・SEMを用いて得た析出粒子形態と比較・検討した。具体的には, 駆動中EC素子を暗視野顕微鏡に設置, 作用電極上に電着する銀ナノ粒子に対し, ハイパースペクトルカメラによる光学測定を行うことで, 単一ナノ粒子の成長に伴うプラズモン共鳴帯変化のその場観察に初めて成功した。その共鳴帯変化は, 粒子の析出状態と非常に高い相関性を示し, 光学特性・析出形態両面からの単一粒子特性評価を可能とした。一方, 2)については, 銀ナノ粒子の表面修飾材としての効果が既に示されている高分子を電解液に添加, 電析ナノ粒子への複合化による電気化学特性, 光学特性への影響を検討した。修飾材の電析銀ナノ粒子表面への吸着により, 前例のない特異的な粒子形態で電解析出し, 新奇の光学状態の発現に加え, 発色保持特性(メモリー性)の改善にも成功した。 これらの結果は, 未来のディスプレイや調光素子における省エネルギー化の観点からも非常に有用である。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は順調な研究成果が得られており,今後の研究推進方策も当初の計画通りで変更はない。しかしながら,目標とする高色純度(吸収半値幅:200 nm以下)を有する減法混色CMY,加法混色RGBの各々8段階表現を達成した革新的フルカラープラズモン共鳴帯精密任意制御型EC素子の実現と実用化を念頭に置いた場合,未だ課題は残されている。当初の目的を達成するため,以下に示す項目について令和5年度以降検討を進める 1)前述した本課題の主目的のうち,未だ発現に至っていない加法混色RGBにおけるRedとBlueの発現法を確立する。Redは可視域の中・長波長,Blueは短・中波長に吸収帯を持てばよい。手段として添加物を利用した異方性銀ナノ粒子を利用する。理論計算を用いて単一粒子中で二つの共鳴モードを有する異方性形態をモデリングし,その形態に対応する添加物の採用および電解条件を最適化することで,その形態を有する粒子を素子中で実現,電解析出銀粒子によるRedとBlueの発現条件を明示する。 2)さらに電極修飾と添加物を掛合せ, 電極上に異方性粒子を析出, 色を発現させた後, 見かけ上の粒子成長を止めることで狭スペクトル化を実現する。水晶振動子を用いたEQCMで電極上での銀の挙動をモニタリングし, 各階調表現を実現する最適条件を導き出すとともに, 減法混色CMY, 加法混色RGB各色表現可能な方法論を確立する。 3)これまでに得られた知見に加え, 印加電圧波形や電解液組成, 電極修飾法を含めた総括的な電解条件を精査すると共に, 銀以外のプラズモニック金属との複合化も検討し,フルカラー階調表示可能な銀析出型プラズモニックEC素子の実現を目指す。
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