研究課題/領域番号 |
22H02157
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大塚 晃弘 京都大学, 理学研究科, 准教授 (90233171)
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研究分担者 |
中野 義明 京都大学, 理学研究科, 助教 (60402757)
佐藤 徹 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 教授 (70303865)
石川 学 京都大学, 理学研究科, 技術補佐員 (80563923)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 有機熱電変換材料 / 錯体作製 / 結晶構造解析 / バンド計算 / 電気抵抗率測定 / 構造相転移 / 巨大Seebeck効果 / 有機半導体 |
研究実績の概要 |
N-アルキルDABCO(CnDABCO)を対カチオンとしF2TCNQ、F4TCNQの錯体の作製、構造・物性の検討を行った。 (C1DABCO)4(F2TCNQ)4(I2)2 (1)、(C1DABCO)4(F2TCNQ)4I3・THF (2)、(C2DABCO)2(F2TCNQ)3 (3)の中で、錯体1、2では、F2TCNQ分子は強く2量化した1次元積層カラムを形成していた。バンド計算によりバンド絶縁体であることが示され、実測の室温電気抵抗率はそれぞれ1 GΩ cm及び0.1 GΩcmオーダーであった。錯体3では、-1価のF2TCNQの2量体を0価のF2TCNQの単量体が結びつけるように積層し、屏風の様に波打ったレンガ壁構造をした2次元的な電荷秩序絶縁体と考えられ、その 室温電気抵抗率は0.1 kΩ cmオーダーであった。 (CnDABCO)(F4TCNQ)、(C3DABCO)2(F4TCNQ)3、(C6DABCO)2(F4TCNQ)3・THFは、いずれも絶縁体であった。(C6DABCO)(F4TCNQ)は約175 Kで構造相転移が確認され、室温構造(C2/c)から低温構造(P-1)で格子サイズが1/4になった。C6DABCOは2量体の平面にほぼ平行なものと、積層方向にほぼ平行なものに分かれ、F4TCNQの積層様式にも300 Kと100 Kで違いが見られた。 他に、電子受容性の弱い大環状化合物を強力な還元剤により陰イオン化し、種々のラジカルアニオン塩を単結晶試料として得た。 巨大Seebeck効果が観測されているペンタセン等の有機半導体について、キャリア生成過程についての理論的検討を行った。新たな有機熱電変換材料の設計指針を得て、巨大Seebeck効果が期待できる材料候補を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、結晶工学や振電相互作用を制御することにより、超伝導や熱電変換等を示す分子性導体を開発することを目的としている。物質開拓、構造解析、物性評価等の実験的研究を大塚、中野、石川、振電相互作用に関する理論的研究を佐藤が担当している。 実験的研究では、様々なN-アルキル化DABCOとF2TCNQ、F4TCNQの新規ラジカルアニオン塩を作製し、単結晶構造解析に成功し、構造相転移や半導体的導電挙動を示すことを明らかにした。また、これらF2TCNQ、F4TCNQのラジカルアニオン塩は、対応するTCNQ塩とは異なる結晶構造を有することが明らかになっており、TCNQへのフッ素導入による分子間相互作用の変化が原因と考えられる。 また、TCNQ誘導体よりも高い対称性を有するポルフィリン、フタロシアニン、C60等を構成成分とする錯体の結晶構造と物性を明らかにしている。 理論的研究では、巨大Seebeck効果が観測されているペンタセン等の有機半導体を対象として、振電相互作用の観点からキャリア生成過程について理論的解析を行い、巨大Seebeck効果が期待できる材料候補を見出している。 以上、TCNQ誘導体、ポルフィリン、フタロシアニン、C60等、対称性、振電相互作用の異なる分子を用いた分子性導体の結晶構造と物性を明らかにし、理論的にも巨大Seebeck効果が期待できる材料を提案していることから、進捗状況はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
結晶工学や振電相互作用の制御により、超伝導や高効率熱電変換を示す分子性導体の開発を行うとともに、超伝導転移温度や熱電変換効率の向上のため電相互作用の観点から理論的解析を行い、設計指針を導出する。 令和5年度は、これまでに得たF2TCNQ、F4TCNQ錯体の詳細な解析を進めるとともに、低次元強相関電子系を構築するためにカチオン:アクセプター分子の組成比が1:2の錯体の開発を行う。具体的には、まずN-アルキル化DABCO、CnDABCO (Cn = CnH2n+1)とF2TCNQ、F4TCNQとの1:1塩、(CnDABCO)(F2TCNQ)、(CnDABCO)(F4TCNQ)を作製する。次に、1:1塩と中性のF2TCNQ、F4TCNQを混合することにより、(CnDABCO)(F2TCNQ)2、(CnDABCO)(F4TCNQ)2を得る。TCNQを成分とする1:2塩、(CnDABCO)(TCNQ)2では、低次元強相関電子系の構築に成功している。(CnDABCO)(F2TCNQ)2、(CnDABCO)(F4TCNQ)2を作製することで、フッ素化が結晶構造や物性に及ぼす影響を明らかにする。また引き続き、TCNQ誘導体以外のπ共役系分子を構成成分とする錯体の検討を行うとともに、熱電材料として有望な材料を理論的に探索する。
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