研究課題/領域番号 |
22H02167
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高見 剛 京都大学, 人間・環境学研究科, 特定准教授 (40402549)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | フッ化物イオン伝導 / フッ化物 / 合成 / イオン結合 / 固体イオにクス |
研究実績の概要 |
室温でのフッ化物イオン伝導率を高めることは、既存のリチウムイオン電池の性能を凌ぐフッ化物イオン電池の室温使用への道を拓く。また、多結晶体で室温においてフッ化物イオン伝導率はリチウムイオン伝導率を超えられるか、という根源的な課題が未解明である。しかし、無機フッ化物自体の種類が少なく、その合成方法も限られている。本研究では、独自の手法により、フッ素化剤を用いた間接フッ化を行い、フッ化物を創製した。フッ化物イオンを拡散させるために、拡散の速いとされる2次系物質にフッ素化を行った。(Ba,A)2NFx (A = Na, K)に化学フッ化を行うことで、フッ化物イオン伝導の発現を達成した。この過程で、化学結合に関係する電気陰性度がF(3.98)に対して、N(3.04), Ba(0.89)と系統的に変化し、イオン結合性が精査できる元素を選択した。化学フッ化の過程で、格子間のアニオン電子がフッ化物イオンと交換されることを見出した。また、第一原理計算も併用して、この交換反応を実証した。特に、BaサイトをKと置換して、Ba2N層の層間距離を大きくすることが、高いフッ化物イオン伝導の発現に有効であった。また、(Ba,A)2(Sn,Zr)O4-xF2x (A = K, Rb, Cs)にも化学フッ化を行うことで、A = Kのときに小さな活性化エネルギー(0.35 eV)を達成した。そのため、ほぼ理想的な拡散障壁が形成できいることが示唆される。フッ素ガスを用いた直接フッ素化については、間接フッ化よりも酸化力が強く、より多くのFの導入が可能となる。この利点に着眼し、共同研究により合成装置を立ち上げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
間接フッ化を行うフッ素化剤として、XeF2とNH4Fの有効性を見出した。Ba2NFの場合、Fサイトが完全に占有されており、電子的にもイオン的にも絶縁体であった。次に、(Ba,A)2NFx (A = Na, K)でFサイトに空孔を導入した。AサイトのNaまたはK量の増加とともに、Fが化学量論比よりも欠損し、格子中にアニオン電子の存在が示唆された。これは、Ba2Nが電子化物であることと矛盾しない。このアニオン電子をXeF2で化学フッ化することで、Fイオンと交換できることを中性子回折実験のより明らかにした。このことで、Ba2N層の層間にFイオンとその空孔を共存でき、フッ化物イオン伝導が発現した。また、第一原理計算でもアニオン電子とFイオンとの交換の傍証を得、アニオン電子-Fイオンの散乱よりも空孔-Fイオンの拡散の方がエネルギー的に安定であることを解明した。一方、(Ba,A)2(Sn,Zr)O4-xF2x (A = K, Rb, Cs)の合成では、NH4Fを用いて前駆体の酸化物(Ba,A)2(Sn,Zr)O4を化学フッ化した。放射光X線回折と中性子回折で、結晶構造を精密化した。層間にFとその空孔を共存でき、この2次元拡散により小さな活性化エネルギー(0.35 eV)が実現している可能性が高い。この値は、類似構造体のイオン伝導体の活性化エネルギーとしては最も低い。この機構を解明するために、第一原理計算を実施中である。また、招待執筆により、フッ化物イオン伝導体を俯瞰したReview paper (J. Phys.: Condensed Matter)としてまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
間接フッ化の手法を他の物質群にも拡張するとともに、Fガスによる直接フッ化の条件出しにも取り組む。具体的には、圧力、温度、時間の最適化を行う。(Ba,A)2NFx (A = Na, K)において、F空孔を透過電子顕微鏡で検知することに挑戦する。透過電子顕微鏡において結晶材料に入射した電子線に現れる電子チャネリング効果を利用する高角度分解能電子チャネリングX線分光を用いる。この測定には、大きな結晶が必要なため徐冷速度を小さくした合成を行う。これと中性子回折実験や理論計算の結果を合わせて、整合性を得る。成果を学術論文として投稿する予定である。(Ba,A)2(Sn,Zr)O4-xF2x (A = K, Rb, Cs)において、第一原理計算により小さな活性化エネルギーを実現しているFの拡散機構を明らかにする。また、中性子回折実験を行い、中性子データに最大エントロピー法を適用して、F核密度分布を可視化する。小さな活性化エネルギーから移動度は最適化されているため、次はもう一つの支配因子であるキャリア(空孔)量の制御も試みる。直流分極法により、電子伝導率を測定して、Fイオン伝導の輸率を評価する。今後は、3次元拡散の期待できるTl5SnF9の合成にも新しく取り組み、化学フッ化の手法を拡張するとともにイオン伝導率を評価する。活性化エネルギーやイオン伝導率の情報を物質合成へフィードバックして、mScm-1台の室温フッ化物イオン伝導率を達成を目指す。
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