研究課題/領域番号 |
22H02172
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
溝口 拓 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, NIMS特別研究員 (50598414)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 金属間化合物 / 電子化物 / 電子構造 / 触媒 / 固体化学 / アンモニア / 水素 |
研究実績の概要 |
本研究では、安価なNiをベ-スとした金属間化合物に空隙を導入することにより出現する化学的に活性な電子を触媒反応へと適用することを狙う。固体中の活性な電子は、低温で水素イオン(H-)と置換することが多く、これらの物質を、水素が絡んだ化学反応に適用することは興味深い。2022-2023年度は、仕事関数及び、結晶格子の硬さに着目して、Ni基の金属間化合物を中心に電子化物の物質探索を行った。その結果として、水素吸蔵特性を持つ金属間化合物を効率的に発見でき、その応用を検討している。得られた成果を、3つのサブテ-マ毎に、以下に記す。 (1)電子化物:水素吸蔵材料を含めて、ユニ-クな物性を持つ電子化物的金属間化合物を探索した。電子化物的性質を有する金属間化合物だけでなく、n型半導体(化合物半導体)にまで拡張した。このとき、ジンクブレンド型副格子を持つ結晶構造がキ-となる。 (2)アンモニア分解用触媒への適用:海外で製造された水素を日本に輸送するための水素の貯蔵輸送用キャリアとして、液体アンモニアが期待されている。吸熱反応であるアンモニア分子の分解反応(水素の取り出し)は高温(400-900 ℃)で進行し、その実用化には低温化触媒の開発が必須である。NiやCoを含有する金属間化合物触媒を中心に低温熱分解を検討する。 (3)水素分子のオルソパラ転移触媒への適用:液体水素も水素キャリアとして期待されている。液体水素製造時のボイルオフを避けるため、本研究では高速転換が可能なオルソパラ転換用触媒の開発を狙う。数多くの化合物をサ-ベイした結果、イオン結合性を持つ化合物半導体微粉末表面の局所電場が水素分子の核スピンを有効に変調させることを見い出した。(例えば、CeO2粉末)この効果を増強させ、新規な触媒の開発へと展開する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022-2023年度は、数百の金属間化合物、酸化物、窒化物、水素化物、ハロゲン化物などを、実験とDFT計算を組み合わせて探索した結果、電子化物的な電子構造を持つ金属間化合物を数多く見い出した。2023年度からは、特異な電子構造を持つそれらの物質の、応用を検討している。 (1)アンモニア分解用触媒:アンモニアを低温で分解し、水素の取り出しが可能な触媒への適用を検討した。ガスクロとマスフロ-メ-タを組み合わせ、データの自動取り込みが可能な触媒活性評価装置を組み立てた。これを用いて、700以上の試料を迅速に評価することにより、Ru金属触媒の活性には及ばないものの、400℃で活性を示すNi系やCo系の金属触媒を発見した。アンモニア分解に活性を示す金属間化合物は多くなかった。金属間化合物を酸化して、酸化物担体と金属触媒へのスピノ-ダル分解を経て相分離させ、網目状の組織を形成させることにより、触媒金属を閉じ込め、その粒成長を抑制することができた。Ni金属などは、通常は窒素やアンモニアと反応しにくいが、上述の閉じ込めにより、Ni表面活性が増強され、触媒活性の向上を見い出した。 (2)水素分子のオルソパラ転移触媒:低温(77K)にて、水素分子の核スピン配置の高速転換が可能な触媒材料への適用を検討した。金属、金属間化合物、半導体、半金属などの活性を網羅的に調査することにより、いくつかの傾向を確認した。(a)金属的電子構造を持つ物質は、低活性であった。(b)半導体的電子構造を持つ酸化物が高活性を示すことが多かった。これらの実験的事実から、触媒活性を支配する最大の因子は、イオン結合性酸化物半導体の表面における局所電場であることを見い出した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、これまで得られた物質の各種触媒への応用を調査する。触媒特性は、多くのパラメ-タ(例えば、触媒物質だけでなく、粒径、表面積、担体など)に依存するので、電子構造のようなミクロなスケ-ルからの材料開発だけでなく、マクロな観点からの材料科学的な研究開発も進める。 (1)アンモニア分解用触媒: Ru金属が高い触媒活性を示すことはよく知られているが、その資源量に問題がある。より廉価な金属系材料の低温アンモニア分解特性を評価する。中でも、NiやCoなどの廉価な3d遷移金属を含む化合物に着目する。アンモニア分解反応は2つの素過程から成る。N-H結合の切断、及び、触媒上でのN原子同士の再結合によるN2分子の生成である。両方を実現するのに要求される特性は相反するものであり、単一触媒で両者を同時に満足することは難しい。これを克服するには、触媒金属の電子構造の設計だけでは不十分であり、複合材料触媒としてのミクロ組織制御などにより機能向上を狙う必要がある。STEM観察などを駆使して、ミクロ組織に関する情報を得る。 (2)水素分子のオルソパラ転移用触媒:我々は、液化水素製造時のボイルオフ問題の解決に取り組む。昨年度までは液体窒素温度77Kにて、触媒評価を実施してきた。より実用プロセスに近づけるために水素の沸点直上の25Kにて変換特性を調査したく、パルスチュ-ブ型冷凍機を導入し、データの自動取り込みが可能な熱伝導検出器を取り付けた。この評価システムの立ち上げを急ぐ。オルソパラ転移を引き起こすメカニズムはいくつか知られているものの、触媒表面の局所電場がもっとも支配的であることを我々は明らかにした。この効果を増強するために、高酸化数の陽イオンを含みかつ、水素分子のアクセスできる隙間を持つ酸化物半導体を探索する。
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