研究課題
次の2点に取り組んだ。1)固体電解質(SE)表面のLi金属の接触角計測システムの構築2)SEの短絡を引き起こす臨界電流密度の測定1)を実現するために、前勤務校より移設したグローブボックスをはじめとする実験装置の立ち上げを行なった。それと並行し、2)に取り組んだ。SEとの界面でLi金属負極を放電(=溶解)すると、界面近傍のLi金属中に空隙が生成する。この空隙生成によってSEの短絡が引き起こされると考えられている。空隙生成から短絡に至るまでのメカニズムは以下のプロセスを経る。まず、Li原子がイオン化し、界面を越えてSE中に溶解する。Li金属中に残された原子空孔は凝集することでLi金属中に空隙を形成する。界面に存在する空隙によって局所的に電流密度が増大する。充電(Liの析出)時に局所電流密度が臨界値に達すると、Li金属の成長がSE内部へ進行し短絡が発生する。したがって、臨界電流密度を正確に測定するためには、空隙が存在しない状態の界面を実現し、測定を行う必要がある。そこで、本研究では次の測定法を採用した。まず特定の電流密度でLiの析出を短時間行い、その過程で短絡が生じなかった場合には、いったん測定を止めてセルを加熱し、空隙によって減少した対極側の界面積を回復させた後、電流密度をわずかに上げ、再び短時間のLi析出を行う。この工程を短絡が起こるまで繰り返すことで臨界電流密度を求めた。また、100 MPa近い静水圧下では、Li金属中に空隙が形成されない状況を実現できると考えられる。そこで、静水圧処理装置を用い、高静水圧環境下でSEが短絡する電流密度を測定し、上記の手法で求めた臨界電流密度の値と比較した。その結果、二つの手法で求めた臨界電流密度は概ね近い値を示すことが明らかとなった。また、界面に空隙が存在しない状態で測定した電荷移動抵抗をLiとSE界面の電荷移動抵抗として評価した。
3: やや遅れている
2022年4月1日付で九州大学に着任後、実験装置の立ち上げなどに時間を要し、すぐには研究に着手できなかったため。
実験装置の立ち上げを終えたため、固体電解質(SE)表面上でLi金属が示す接触角を計測するシステムを構築する。また、接触角は一般に基板表面の粗さに依存するため、原子間力顕微鏡を用い、使用するSEの表面粗さを評価する。また、接触角測定に使用する固体電解質にはリン酸リチウムオキシナイトライドガラス(LiPON)を採用する。LiPONは非晶質の固体電解質であり、スパッタ成膜が可能である。組成が異なるLiPON薄膜を作製し、「Li金属とSEの間の親和性」、「電荷移動抵抗」、「SEの耐還元性」の三者の相関を系統的に調査する。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件)
Journal of The Electrochemical Society
巻: 170 ページ: 012503~012503
10.1149/1945-7111/aca79d