研究課題/領域番号 |
22H02208
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
鈴木 健夫 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90533125)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | RNA / メチル化 / 転移反応 |
研究実績の概要 |
動物組織のヌクレオシド分析から見いだされた新規修飾構造Xは、高等真核生物からのみ検出される点で本研究に適した対象と言える。培地に添加したCD3-メチオニンにより培養細胞中のXの質量が6Da増加したことから、S-アデノシルメチオニンを介して酵素的にジメチル化される生合成様式が示唆された。一方、Xの前駆体となるモノメチル化体Yの非酵素的な転移反応が中間経路で必要とも推測された。そこで組み換えタンパク質として取得したYの修飾酵素を用いて、T7転写反応で合成した細胞質tRNAを基質にメチル化反応させYを導入し、非酵素的な転移反応の実施後に、2回目のメチル化反応をすることで、Yの導入部位にXが新たに生じる結果を得た。また15N標識化合物による核酸塩基N原子の選択的標識とその追跡により、細胞内在のXが転移反応を経て形成されることを実証した。天然tRNA中からXを探索したところ、細胞質の成熟tRNAよりも核質内のtRNA前駆体においてXが強く検出されたことから、Xを持つtRNAは成熟の過程で分解されやすいか、脱メチル化反応によりYに戻るといった量的な調節を受ける機構が示唆された。 修飾Xの機能の理解に向けて、環境変化に対する応答として細胞中のXの量が変動する可能性を探索した。転移反応の反応機構から、培養細胞内のpH上昇がXの形成を促進すると考えられたため、大気下(低い%CO2条件)の静置で培地のpHが経時的に上昇する性質に基づき、HEK293T細胞を大気条件下で培養し、Xの含有量をLC/MSで測定したところ、5%CO2で培地pHを中性付近で安定させる汎用的な培養環境条件と比べ、24時間の培養の間にXのシグナル強度が経時的に上昇する傾向が見いだされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
安定同位体標識化合物を用いた代謝ラベル法から推測された修飾の生合成過程について、実際にin vitro再構成に成功し、また同様の反応経路が細胞内にも存在することを示したことは、修飾形成に非酵素的な過程が重要という、新たな反応形式の存在を示すことにつながった。修飾の量的変動が培地pHの上昇という環境要因によって引き起こされる可能性を見出したことは、修飾の導入がシンプルな化学構造の変化であるだけでなく、遺伝子発現の動的な調節因子となりうるという新たな側面の例示につながった。
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今後の研究の推進方策 |
修飾Xについて細胞質tRNA上で修飾Yを起点に、非酵素的な転移反応を介する新たな形式の生合成経路が再現されたことから、ミトコンドリアtRNAにおいても同様のスキームでXを再構成できるか、また内在のミトコンドリアtRNAからXが検出さるかを検証する。そのため、上述と異なるYの修飾酵素の取得や基質tRNAの調製しXの再構成を試みる。最終的にXが複数の異なる基質上で生じるための非酵素的プロセスの一般性を示すことにつながる。
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