研究課題/領域番号 |
22H02212
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
戸嶋 一敦 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (60217502)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 光線力学療法 / 刺激応答型光感受性分子 / ヒポクレリンB / L-システイン / アクリロイル基 / がん細胞 / 光細胞毒性 |
研究実績の概要 |
光線力学療法は、特定波長の光照射下、活性酸素種を生成することで細胞毒性を発現する光感受性分子とレーザー光を併用した治療法である。本手法は、光感受性分子を標的組織に集積させた後、レーザー光を照射することで標的組織選択的な細胞毒性を発現することから、人体への負担が少ない低侵襲治療法として注目を集めている。 本研究では、がん細胞で過剰発現しているバイオマーカーに対して選択的に応答する、刺激応答型光感受性分子のデザイン、合成、及び機能評価を行った。まず、分子デザインに際し、ある種の増殖性の高いがん細胞において高濃度で発現している L-システイン(Cys) をバイオマーカーとして選択し、ヒポクレリン B(1)の3位及び10位水酸基を、Cys に応答性を示すアクリロイル基で保護した化合物2をデザイン及び合成した。続いて、1及び2の UV-Visスペクトルを比較した結果、2の660nm 付近の吸光度が顕著に減少することを明らかにした。次に、2のウシ血清アルブミン(BSA)に対する光分解活性をSDS-PAGEにより評価した結果、1と比較して2の光分解活性が顕著に低下することを見出した。さらに、2の一重項酸素生成能をESRにより評価した結果、1と比較して2の一重項酸素生成能が顕著に低下することを明らかにした。続いて、2のCysに対する応答性を、HPLC を用いて評価した結果、2はCys に応答して、光感受性を有する1を放出することを見出した。最後に、ヒト正常細胞 WI-38 及びCys を過剰発現しているヒト子宮頸がん細胞 HeLaに対する2の細胞毒性を評価した。その結果、2は HeLa 細胞選択的な光細胞毒性を発現することを見出した。以上の結果より、2がCys を過剰発現しているがん細胞選択的に光細胞毒性を発現するがん細胞応答型光感受性分子であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究においては、当初の研究計画の一つである、光感受性分子ヒポクレリンBを用いた刺激応答型光感受性分子の創製と応用研究を行った。その結果、ある種の増殖性の高いがん細胞のバイオマーカーの一つであるL-システインを過剰発現しているがん細胞選択的に光細胞毒性を発現する、がん細胞応答型光感受性分子を創製出来たことから、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、より活性の高い新たな刺激応答型光感受性分子の創製と応用研究を行う。すなわち、活性の高い光感受性分子として知られるアントラセンに水酸基が付与したアントラノールを新規光感受性分子の候補とした刺激応答型光感受性分子のデザイン、合成、及び機能評価を行う。 まず、種々のアントラノールのウシ血清アルブミン(BSA)に対する光分解活性をSDS-PAGEにより評価し、光感受性がONであるアントラノール誘導体を見出す。次に、バイオマーカーとしてある種のがん細胞に過剰発現し、リン酸エステルの加水分解反応を触媒するアルカリホスファターゼ (ALP)を選択し、光感受性がONであるアントラノール誘導体のフェノール性水酸基をリン酸エステル化した化合物をデザイン及び合成する。さらに、フェノール性水酸基をリン酸エステル化した化合物の光分解活性を評価し、光分解活性が顕著に低下し、光感受性がOFFになるかを検証する。次に、光感受性がOFFである分子のALP応答性を、蛍光スペクトル及びHPLCで評価し、それらが、ALPに対して速やかに応答し、光感受性がONになることを示す。さらに、光感受性がOFFであるアントラノール誘導体のヒト正常細胞 WI-38及びALPを過剰発現しているヒト子宮頸がん細胞HeLaに対する細胞毒性を評価し、HeLa細胞選択的な光細胞毒性を発現することを示し、ALPを過剰発現しているがん細胞選択的に光細胞毒性を発現するがん細胞応答型光感受性分子の創製を達成する。
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