研究実績の概要 |
ヒトの健康ならびに食料となる農作物に多大な被害をもたらす真菌の存在は、人類にとって大きな脅威であり、新しい抗真菌剤の開発が求められている。そこで本研究では、低濃度で病原性真菌に効く化合物を用いて標的予測を行い、遺伝学的、細胞生物学的、生化学的などの手法を駆使して、細胞内の標的を同定することを目的にして研究を行った。まず理化学研究所の化合物バンクNPDepoの中から低濃度で抗真菌活性を示す化合物の選抜を(Piotrowski et al., 2017)のデータを基にして行った。8500化合物の中から、酵母に対して低濃度で作用を示す190化合物を選抜し、その後、細胞壁を標的とする11の化合物を選抜した。その中で、細胞壁に影響があると予想されたクマリン系化合物、9-(2,4-ジフルオロフェニル)-4-(4-メトキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-2H,8H-クロメノ[8,7-e][1,3]オキサジン-2-オン(以下、NPD2560と呼ぶ)を今年度の研究では着目した。NPD2560はCandida kruseiに対してuM程度の低濃度で効果があった。形態プロファイリングの解析から、NPD2560で処理した細胞の形態はRho1の下流で働くBni1の欠損株の形態に有意に類似していた。しかし、BNI1/bni1 bnr1/bnr1はNPD2560感受性を示さなかったことから、Bni1が直接の標的である可能性は低いことが示唆された。しかしながら、Rho1の上流で働くGEFであるRom2の破壊株は感受性に、GAPであるBem2の破壊株は耐性になった。さらにRHO1/rho1がNPD2560感受性になり、NPD2560処理によってβ-1,6-グルカンの量が有意に減少しSlt2のリン酸化が増加したことから、NPD2560はRho1に影響を与え、細胞壁の構築に効くことが示唆された。
|