研究課題/領域番号 |
22H02247
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
阿部 文快 青山学院大学, 理工学部, 教授 (30360746)
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研究分担者 |
三岡 哲生 青山学院大学, 理工学部, 助教 (60754538)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 出芽酵母 / 高水圧ストレス適応 / メカノセンシング / CWI経路 / Wsc1 / Fps1 / グリセロール排出 |
研究実績の概要 |
生物は刻々と変化する外的環境―栄養状態、温度、pHや浸透圧など―を検知し、細胞内にシグナルを伝達する。圧力や重力といった力学的ストレスも細胞分化や筋肉の増強を促すが、それらのインプットを細胞内で処理するメカニズムの全容は未解明である。本研究では出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeをモデルとし、メカノセンシング機構の解明を目指した。酵母細胞膜にはWsc1を始めとする5つのストレスセンサータンパク質Wsc1, Wsc2, Wsc3, Mid2およびMtl1が存在し、熱や細胞壁ストレスを下流のCell Wall Integrity(CWI)経路にシグナルを伝達する。それらタンパク質の各遺伝子欠損株を25 MPaで48時間培養したところ、wsc1株のみが高圧感受性を示した。よって、Wsc1が高圧環境への適応に重要である可能性が示唆された。細胞壁ストレスを検知したWsc1はクラスター化し、その細胞質末端にRom2がリクルートされ、Rho1を活性化する。活性化されたRho1は、そのシグナルをPkc1、Bck1 (MAPKKK) 、Mkk1/Mkk2 (MAPKK)、Slt2 (MAPK)へと伝達する。これらのタンパク質をコードする各遺伝子の破壊株もやはり高圧感受性を示した。よってCWI経路の活性化は高圧下における増殖に不可欠であるものと考えられる。Slt2が有する様々な機能のうち、グリセロールの排出を担うアクアグリセロポリンFps1に着目した。興味深いことに、野生株を25 MPaで1~5時間培養したところ、細胞の膨潤が観察された。この過程でSlt2キナーゼがFps1をリン酸化により活性化し、グリセロールを積極的に排出していることが見いだされた。すなわち、酵母は細胞内の浸透圧を低下させ、水の流入を防ぐことで高水圧環境への適応を果たすものと結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、酵母におけるメカノセンシング機構として、Wsc1をストレスセンサーとした高水圧シグナル伝達経路の存在を明らかにした。Wsc1によりCWI経路が活性化し、そのアウトプットして特に重要なのがFps1によるグリセロール排出だった。「高水圧」が「低浸透圧」という質的に異なる外部要因に対し、酵母はCWI経路という共通のシステムを利用して適応を果たしている点が興味深い。遺伝学的解析と細胞形態観察、および生化学的解析を融合した統一モデルを提唱できたことから、進捗状況としては概ね順調であると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
Slt2の下流には様々な転写因子が存在し、その多くが細胞壁の合成や維持に関与する遺伝子を活性化する。そこで今後は、いずれの転写因子が酵母のメカノセンシングに重要なのか、また、どのような遺伝子の発現が増強されるのかを明らかにしようと考えている。高水圧による細胞の膨潤に伴い、細胞膜の陥入構造であるeisosomeの消失が確認された。EisosomeにはSlm1/Slm2というタンパク質が局在しており、それらはeisosomeから離脱するとTORC2を活性化することが知られている。TORC2はスフィンゴ脂質の合成やアクチン細胞骨格の制御に関わる重要なタンパク質複合体である。そこで今後は、CWI経路とTORC2経路のクロストークに視点を置いた解析を行う予定である。
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