研究課題/領域番号 |
22H02251
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
若井 暁 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭研究開発プログラム), 主任研究員 (50545225)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 微生物腐食 / 微生物群集構造 / メタゲノム / シングルセルゲノム / 硫黄代謝 |
研究実績の概要 |
金属材料の腐食に微生物がかかわる現象(微生物腐食)は、あまり広く知られていない。微生物腐食は、我々の生活を支える各種インフラストラクチャ―の劣化にもかかわり、膨大な経済的損失と石油関連施設や化学工場でのパイプライン腐食から石油や化学薬品での環境汚染などを引き起こす重要な社会問題の一つでもある。微生物腐食現象を理解するためには、その腐食過程での微生物活動を露わにすることが必要である。そこで、本研究では、微生物腐食発生が継続的に確認されている実環境からのサンプル、および、実験室レベルでの腐食再現試験を対象として、腐食過程における微生物の活動を明らかにすることを目的とした。 これまでに実施した腐食環境中微生物でのメタゲノム解析では、マルチヘムタンパク質などの微生物腐食反応における細胞外電子伝達に関与する遺伝子情報などが見つかっているが、機能未知遺伝子も多く見つかっており、由来微生物情報への帰属が難しいなどの問題点があった。また、微生物群集構造解析のデータからも微生物機能をアサインしにくい微生物などが多く検出されており、腐食現象との関係性を見出すことが難しかった。そこで、腐食生成物からの微生物細胞の洗浄・回収手法を構築し、シングルセルゲノム解析を実施することに成功した。属レベルの出の帰属の難しい微生物種などのドラフトゲノム解析結果を得たことで、腐食反応に影響すると考えられる硫黄代謝や窒素代謝、エネルギー代謝に関する遺伝子情報が明らかになりつつある。 微生物腐食研究分野において、シングルセルゲノム解析手法を取り入れた実例はなく、本研究で得られた見培養微生物情報は微生物腐食メカニズムを理解する上で今後非常に重要になってくるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで研究対象としていた淡水環境での微生物腐食現象に加えて、海水環境(浅海および深海)での微生物腐食現象の解析にも着手し、淡水環境と海水環境の相違点や共通点が見出せている。特に、海洋環境においては、ステンレス鋼やニッケル合金などの腐食も比較的起こりやすく、これらの耐食性合金の腐食材料についても微生物群集構造の情報を得ることに成功している。加えて、腐食材料の腐食部と健全部から全く異なる微生物群集構造が確認されており、アノードとカソードでの微生物機能のかかわり方の違いが見えてきている。 また、本研究課題において、微生物腐食研究分野でほとんど適用のなかったメタゲノム解析に加えて、シングルセルゲノム解析を導入し、新たな知見が得られつつある。メタゲノム解析では、遺伝子情報を包括的に入手する目的では優れているが、当該遺伝子を微生物種に帰属させるためにはビニングが必要であり、ビニングも完全ではないため遺伝子と微生物の情報のリンクが欠けることもしばしばある。一方で、シングルセルゲノム解析では、一細胞ごとのドラフトゲノム情報を得ることができるため、各微生物細胞ごとの遺伝子機能の割り当てが可能である。一方で、腐食生成物のような固形の不要物を多く含む環境試料については、シングルセルゲノム解析が敬遠されてきたが、腐食生成物からの効率的な細胞回収方法を考案し、シングルセルゲノム解析に成功したことは大きな成果と言える。また、実際にシングルセルゲノム解析を実施したことにより、微生物群集構造解析ではGammaproteobacteria綱に属することまでしかわからなかった複数の微生物についてドラフトゲノム情報を得ることに成功しており、硫黄代謝や窒素代謝に関する遺伝子情報を明らかにできている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで腐食生成物を一つの塊として取り扱い、メタゲノム解析やシングルセルゲノム解析を実施してきたが、R5年度において偶然腐食生成物を金属材料(母材)から形状を維持したまま剥離することに成功し、その腐食生成物を三次元的に分割することにも成功している。したがって、R6年度からはこの手法を適用し、腐食生成物中の微生物の三次元的な分布を微生物群集構造解析により露にするとともに、腐食深度別でのメタゲノム・シングルセルゲノム解析も実施し、各腐食深度での微生物機能について考察を進める。 また、ステンレス鋼の腐食前に見られる電位上昇については、微生物機能が関与すると考えられているが、どのような微生物機能が影響しているかの特定には至っていない。淡水環境に浸漬したステンレス鋼において、電位上昇と亜硝酸酸化細菌の集積がこれまでに確認されている。そこで、このバイオフィルムが形成されたステンレス鋼を用いたラボベースでの循環式亜硝酸酸化細菌培養システムを構築し、電位モニタリングを実施しながら、溶液中の微生物変動を解析し、電位貴化現象と微生物活動の相関について調べる。また、多くの亜硝酸酸化細菌は難培養性の微生物であり、培養システムを用いて難培養性亜硝酸酸化細菌の取得と培養特性の解析についても調べる。 さらに、電位モニタリングを実施しながら、金属表面の状態を観察するシステムを構築したので、実験室レベルでの腐食再現に加えて、耐食鋼の腐食発生の起点を捉えることに挑戦する。また、発生した腐食の進展についても経時的に観察する。
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