本研究では、嗜好味受容体におけるリガンド選択性・感受性に、受容体内部のどの部分が関与しているのかを、構造活性相関解析によって実験的に明らかにすることを目的とする。更に、得られた知見をもとにして、点変異導入による高感度型ヒト味覚受容体の創出にも挑戦する。 うま味受容体のリガンド感受性については、我々が以前に行ったヒト・マウス受容体の比較から、リガンド結合ドメインとは離れたドメインを介したアロステリック制御機構の存在が明らかになっている。そこで、まずヒト・マウス受容体の比較から見出されたヒトT1R1の細胞外領域において受容体活性調節に関わる6残基を対象に、それぞれを複数種類のアミノ酸残基に変異させた網羅的な点変異体シリーズをデザインし、これらの点変異導入が受容体の活性の強さやリガンドに対する感受性に与える影響を評価した。 その結果、細胞外領域の蝶番部分の入り口付近に位置するK379とR307において、側鎖の電荷やアミノ酸サイズを変化させた場合に、グルタミン酸に対する応答活性(応答強度または応答感度)が上昇した点変異体が複数得られた。特に電荷を変化させた場合に受容体活性が顕著に上昇する傾向を示したことから、この2残基の側鎖に存在する陽電荷が、ヒトうま味受容体の活性調節に強い影響を与えることが予想された。 一方で、細胞外領域の内側に位置するM320の変異体については、T1R1膜貫通領域に作用する人工うま味物質に対して高感度に応答する変異体が存在していた。この現象については、側鎖に水酸基を含む残基への変異導入によって新たに水素結合が形成され、受容体構造に影響を及ぼす可能性が示唆された。
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