研究課題
本年度は特に嗅覚機能に着目した。アルツハイマー病患者において嗅覚感度が変化することが知られていることから、アルツハイマー病モデルマウスを用いて、アルツハイマー病における嗅覚障害とその要因について検討した。アルツハイマー病は加齢とともに発症割合が上昇することが知られる代表的な認知記憶障害である。アルツハイマー病モデルマウスとして、アミロイドβを内因的に過剰生産するアルツハイマー病のノックインマウスモデル(App KIマウス)を用いた。App KIマウスにおいて嗅覚行動の有意な変化が観察された。次いで、この要因を検討するために、嗅上皮における嗅覚関連遺伝子の発現を調査した。しかしながら、野生型マウスとApp KIマウスの嗅上皮の間で、嗅覚受容体やGタンパク質などの嗅覚関連遺伝子mRNAの発現レベルに有意差は認められなかった。一方で、App KIマウスでは嗅覚経路全体でアミロイドβの沈着が確認された。したがって、App KIマウスで認められた嗅覚行動の変化は嗅覚経路の障害によって引き起こされた可能性が考えられた。また、加齢が嗅覚機能に与える影響を明らかにするために、若齢と高齢マウスを対象とし嗅覚行動の測定を開始した。高齢マウスで若齢マウスと比較し、好ましいにおい物質に対する行動が変化する可能性を見出している。一方で、この時嗅覚関連分子の発現に両群で差は認められなかった。ただし、観察個体数は十分ではないため、2023年度も引き続き検討を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
1年目の計画に関しては上記研究実績の概要に記した通り、予定通り進行している。2年目についても順調に進むことが予想される。
観察個体数を増やすために、今年度も引き続き嗅覚機能に着目した検討を進める。具体的には,嗜好性の匂い物質としてバニラ抽出物、忌避性の匂い物質として2-メチル酪酸を対象として、若齢と高齢マウス間で嗅覚感度の違いを行動アッセイで調査する。アッセイ終了後、嗅上皮を対象に、嗅覚受容体など嗅覚関連遺伝子の発現を測定し、加齢による嗅覚感度の変化に末梢の嗅覚関連遺伝子の発現量変化が関与するかどうかを検討する。また、過去の検討で見出した老化依存的に存在量が変化する唾液タンパク質を対象として、これら分子が味応答を修飾するかどうかを味覚受容体発現細胞を用いて検討する。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
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