研究実績の概要 |
地球温暖化に伴う作物生産に関わる諸問題を解決するため、高温耐性を備えた新品種の開発が喫緊の課題となっているが、植物の外気温応答機構は明らかになっていない。キクは日長調節による周年生産が世界的に普及しているが、夏季の高温開花遅延の克服が積年の課題となっている。最近、シロイヌナズナにおいて光受容体phyBと概日時計因子のEvening Complex(EC)が温度受容体として機能することが報告され、光周期の受容と温度の受容経路が大幅に重複する可能性が示された。本研究では、キクの高温開花遅延をターゲット形質としてphyBや概日時計構成因子ECの機能解明を通じて光周期と温度刺激の統合点を明らかにし、人為的な開花適温の改変を試みると同時に、作物の生育・開花適温の制御機構を理解することを目的とする。これまでに、温度受容に関与すると予想される概日時計因子のECを構成するELF3, ELF4, LUX等の過剰発現体およびCRISPR/Cas9による遺伝子破壊株の作出に取り組み、過剰発現体は各遺伝子について概ね複数ラインの作出に成功し、一部は極端な遅咲き形質や形態異常が確認されている。CRISPR系統については実験条件の最適化を同時進行中であるが、一部の遺伝子では標的遺伝子への変異導入が確認されている。また、栽培ギク品種における網羅的遺伝子発現解析の準備段階としてキクタニギクでの予備実験を概ね完了した。今後は得られた形質転換体の開花応答を詳細に解析し、さらには異なる温度条件下のRNA-seq解析結果を加えることで、概日時計遺伝子による温度受容メカニズムとその標的遺伝子ネットワークが明らかになるものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【課題1】キクタニギクのEC構成因子であるELF3, ELF4, LUX, およびECの直接ターゲット候補遺伝子であるGI, PRR7について過剰発現体 (OX)とCRISPR/Cas9 (CR)による遺伝子破壊株の作出を行った。2023年度は新たにELF4-CR, LUX-CR, PRR7-CRの作出に成功し、各ラインで導入された変異タイプを明らかにした。 【課題2】昨年度に引き続き、異なる温度(20℃, 30℃)条件下での概日時計・花成関連遺伝子の日周変動を新たに導入したオランダ系品種を含めて解析した結果、高温条件下でのFTL3の発現低下とGIを含めた時計遺伝子の暗期中の発現上昇に再現性が見られた。ELF3のPrD構造比較解析については、秋ギク品種(NIFS-3, 神馬)、夏秋ギク品種(精雲、ナガノクイン、ロアール)、オランダ系品種で比較した結果、高温耐性に寄与するような共通の変異はみられなかった。 【課題4】プロトプラストへの遺伝子導入実験系を最適化するため、可視化マーカーとしてハナスベリヒユのベタシアニン生合成遺伝子 (DOD1, CYP76AD1, cDOPA5GT)の発現コンストラクトを作成し、カルスでの着色を確認した。
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