研究実績の概要 |
TSWVの複製が低下するエンドソーム輸送選別複合体(ESCRT)関連出芽酵母変異株のうち、特に複製低下が著しい5種(vps36, bro1, doa4, snf7, vps4)について重点的に解析を行った。いずれの変異株においても、TSWVのLタンパク質およびNタンパク質それぞれの局在に顕著な変化は見られなかった。このうち、bro1、doa4、snf7、vps4変異株では二分子蛍光補完(BiFC)法によるLタンパク質とNタンパク質のレプリコンRNA依存的共局在が検出できなくなったことから、RNPの形成に異常があることが窺えた。一方、vps36変異株では野生型株と同程度のBiFC蛍光が検出され、他の変異株とは異なる段階で複製が破綻していると考えられた。以上の結果は、BRO1、DOA4、SNF7、VPS4はTSWV RNPの形成に必要であり、VPS36は形成されたRNPの機能に必要である可能性を示唆するが、vps36変異株において検出されたBiFCの蛍光が正常なRNPを形成しているのか、あるいはLタンパク質とNタンパク質が何らかの異常な複合体を形成しているのか、さらなる検証が必要である。 興味深いことに、BRO1、DOA4、SNF7、VPS4はESCRT IIIおよびその関連因子であり、細胞内の膜輸送過程においては、VPS36を含むESCRT IIの後に機能するのに対し、TSWVの複製過程においてはその逆の順でこれらの因子が関与していると考えられたことから、TSWVはESCRT経路そのものを乗っ取っているのではなく、一部の因子を本来とは異なる様式で利用して複製していることが示唆された。
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