研究課題/領域番号 |
22H02356
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
木下 充代 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 准教授 (80381664)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 鱗翅目昆虫 / 色覚 / 高次中枢 / キノコ体 |
研究実績の概要 |
本課題は、ヒトより鋭い色覚を持つアゲハチョウを対象にその「色知覚機構」を明らかにすることを目的としている。具体的には、キノコ体視覚入力神経群においてさまざまな光刺激に対する応答を記録し、最高次中枢における「色」の表現を調べている。2022年度は、キノコ体視覚入力神経群における細胞内記録法の改良を進め、基礎的な光応答特性である①分光反応記録数を増やす、②光強度応答特性を明らかにすることに注力した。 電極の刺入位置を定めることができたため、用いた実験個体のほぼ全てでキノコ体視覚入力神経から記録することが可能となった。また、電極や脳の動きを抑制する方法にも改良を加え、記録時間を長くすることができた。以上によって、等光量子に揃えた300nmから740nmまでを用いた分光反応をいくつかの神経では、異なる光強度で測定することができた。キノコ体視覚入力神経は、いずれも反対色性を持示すが、その抑制応答が興奮応答より感度が低いこと、光強度が高くなるほど分光反応は鋭くなることがわかってきた。 電極を刺入する位置を検討する予備実験により、偶発的にキノコ体嗅覚入力細胞、キノコ体内在神経(ケニオン細胞)が少数染め出された試料を得ることができた。アゲハチョウのキノコ体では、ケニオン細胞が二股に分かれていないことがわかってきた。またキノコ体嗅覚入力細胞とY神経束と呼ばれる第二柄部を構成する細胞が同時に染まり、Y神経束は嗅覚情報を基部に向けて特別の経路を持つことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、記録技術が格段に改善し、全ての個体での記録・記録細胞形態の可視化が可能となった。技術の改善に伴い記録できる時間が長くなり、光強度応答を23種類の単色光で記録できた。これにより、「色」と「明るさ」の知覚が神経系においてどのように表現される可能性があるのかが、昆虫で初めて明らかになってきた。 DLPプロジェクターを用いた刺激デザインについて一定の進展が見られ、刺激装置の実用化と記録応答との関係を調べる前段階まで進めすことができた。 偶然キノコ体内在神経の形態についての知見を得る方法を発見し、その形態の記載が可能となった。これにより、今後の研究進展に関する予備的データーを得ることができた。 以上のことから、ほぼ順調に進展してると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
キノコ体視覚入力神経群を対象に、新たにDLPプロジェクターによる画像視覚刺激装置の完成と実験手法の確立に注力する。画像視覚刺激が確立すると、神経群の受容野などのこれまでとは全く異なるレベルで外界の光情報の情報処理に踏み込むことができ、高次中枢神経が表現する知覚世界の理解が格段に進むことが期待できる。また、2022年度に偶発的に得られたキノコ体構成神経の解剖学的な情報をさらに蓄積し、他の昆虫とは大きく異なるチョウ類のキノコ体の神経構成を明らかにする。そのため、2023年度は視覚情報を受け取る神経細胞の形態の詳細と視覚入力神経群とのシナプス結合の様式などを明らかにする神経解剖学的実験も併せて進める予定である。
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