研究課題/領域番号 |
22H02357
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
木矢 剛智 金沢大学, 生命理工学系, 准教授 (90532309)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | カイコ / ショウジョウバエ / 性差 / スプライシング / doublesex / fruitless |
研究実績の概要 |
外界からの感覚情報に対する適切な行動発現は、動物の生存や種の維持に重要である。その神経回路の動作機構や進化の理解は、生物学において重要な未解明の課題の一つである。本課題の解決には、哺乳類に比べ極めてシンプルな昆虫の脳を用いた包括的な解析が有効である。また、昆虫の性フェロモンは、入力(感覚情報)と出力(性行動)が明確に対応しているといった特徴がある。これまでに本研究者は、カイコガ・ショウジョウバエの脳において活動依存的に神経回路を可視化する手法を新規に確立し、昆虫の脳高次領域において性フェロモンに応答する神経回路を同定してきた。本研究は、これらの神経回路の動作機構を解析し、性フェロモンが性行動の発現を制御する神経機構の解明することを目的とした。また、カイコガとショウジョウバエのような進化的に離れた昆虫種間で、神経回路機構の共通性と相違性を明らかにし、昆虫脳の進化(特に性行動に関わる脳機能の進化)を解明することも目的とした。 初年度は以下の3つの項目について重点的に研究を進めた。1.aSP2神経回路の解析、2.性特異的なスプライシングを示す新規遺伝子の同定と解析、3.Bmdsx-GAL4系統を用いたDSX発現細胞や遺伝子機能の解析 初年度、執筆・投稿した論文がPNASにおいてリバイズとなっているため、次年度にはこれを出版することを目指す。また、共同研究として行っていたcaged-アセチルコリンの研究がアメリカ化学学会のJACSでリバイズ中である。 初年度に得られた結果を踏まえ、次年度は、①CaイメージングによるaSP2神経回路の解析、②性特異的なスプライシングを示す新規遺伝子のノックアウト系統の解析、脳における発現解析、培養細胞を用いた性特異的スプライシング機構の解析、③DSX発現細胞可視化系統を利用した包括的な性差形成機構の解析、を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.aSP2神経回路の解析:本研究者は以前、ショウジョウバエの脳において、fruitless(脳の性決定因子)及びVGLUT(グルタミン酸合成酵素)を共発現するaSP2神経が、味覚と嗅覚からの入力依存的に性行動時に活動することを見出していたが、この神経回路の性質については不明であった。そこでaSP2神経特異的に各種神経伝達物質(アセチルコリン・グルタミン酸・GABA)合成酵素をノックダウンした系統を作出し、性行動における影響を調べた。その結果、当初の予想に反し、アセチルコリン合成酵素であるChATをノックダウンすると、性行動の開始や交尾の遂行に障害が認められた。この際、同時に行った内向き整流性Kチャネル(Kir2.1)を発現させた場合と比較して、半分程度の障害率であった。このことから、aSP2から出力して性行動を制御する神経回路において、アセチルコリンが主要な神経伝達物質ではあるが、他にも貢献する神経伝達物質があることが考えられた。 2.性特異的なスプライシングを示す新規遺伝子の解析:ショウジョウバエにおいて性行動の制御に重要なdsxやfruitlessをノックアウトしたカイコガ系統を確立し解析し、これらの因子がなくともオスのカイコガは性行動を示すことが出来ることを見出してきた。このような背景から、カイコガの脳の性差を決定する別な因子があることを想定したスクリーニングを行い、雌雄間で異なったスプライシングを示す新規な転写因子を2つ同定した。初年度は、これらをノックアウトしたカイコガ系統の作出に取り組んだ。 3.Bmdsx-GAL4系統を用いたDSX発現細胞や機能の解析:カイコガにおいてdoublesex遺伝子座にGAL4をノックインしたBmdsx-GAL4系統を用い、DSX発現細胞の可視化やDSXノックアウト個体の解析を行った。 上記より、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
①CaイメージングによるaSP2神経回路の活動動態の解析 aSP2神経回路においてどのように情報の統合が行われているのかといったことを、Caイメージングによって明らかにする。これまでにin vivoおよびex vivoにおいて、aSP2神経をGCaMP(Caインジケータータンパク質)によって解析できる系を構築してきた。今後は、この系を用いて、複数種類の感覚情報が脳内で統合される機構について明らかにする。 ②性特異的なスプライシングを示す新規遺伝子の解析 新規に同定した性特異的なスプライシングを示す遺伝子について、現在、ノックアウトしたカイコガ系統を作出しているので、系統を樹立して生体における当該遺伝子の機能解析を行う。また、これらの遺伝子が脳のどのような細胞で発現しているのかが不明のため、in situ hybridizationや抗体作出及び免疫染色を行い、発現細胞を明らかにしてゆく。またこれまでに、培養細胞(BmN4)を用いることで、新規遺伝子について性特異的スプライシングをin vitroで解析できる系を構築してきた。今後はどのような機構によって性特異的なスプライシングが生じるのか、そのメカニズムを明らかにする。 ③DSX発現細胞可視化系統を利用した包括的な性差形成機構の解析 Bmdsx-GAL4系統を用いたDSX発現細胞可視化は、脳以外の組織においては非常にうまくいっていたことから、これを用いて、様々な組織やライフステージにおけるDSX発現細胞の調査を行う。DSX発現細胞には性差が生じていると予想されることから、本アプローチによって包括的な性差マップを構築することが出来ると予想される。また、Bmdsx-GAL4遺伝子座がホモとなる場合には、DSXのノックアウトが生じるので、可視化と同時に機能阻害実験を行うことが可能である。よってこの系を用いて、包括的な性差の機能解析を行う。
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