研究実績の概要 |
幼若ホルモン(Juvenile hormone, JH)は昆虫の発生・生理を司る重要なホルモンである.多くの昆虫はJH IIIという物質をJHとして用いるのに対し,カメムシ目の中のカメムシ亜目昆虫はJHSB3と呼ばれる物質をJHとして用いる.このJHSB3は,カメムシ目昆虫の進化のどの過程で作られるようになったのだろうか,その合成・受容の分子機構はどのようなものだろうか.本研究は昆虫の内分泌系の進化の一端を明らかにすることを目的とし,JHSB3の系統上の分布,JHSB3合成・受容の分子機構を解明するとともに,合成・受容機構の進化過程を推定する. 今年度はJHSB3の合成系に注目して実験を行った.JH合成器官であるアラタ体に,JHSB3の中間産物候補として考えられるFarnesoic acid (FA), Methyl farnesoate (MF), 2,3-Epoxy MF (EMF), JH III acid (JHA), JH IIIを与え,JHSB3合成量への影響を調べた.与えた物質がJHSB3中間産物であれば,JHSB3合成量が増大すると考えられる.FAの添加はJHSB3の合成量を増大させた.一方,MF, EMF, JHA, JH IIIの添加では合成量の増大は起きなかった.このことから,FAはJHSB3の中間産物であり,MF, EMF, JHA, JH IIIは中間産物ではないと考えられる. JHSB3, JH IIIの片方を持つ,また両方を持つカメムシ類としては,エンドウヒゲナガアブラムシ、タバココナジラミ、ツマグロヨコバイ、ワタアブラムシが挙げられる.これらの昆虫がそれぞれのホルモンをどのように受容しているかを明らかにすべく,Met/SRC発現ベクターのコンストラクションを行った.
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