研究課題/領域番号 |
22H02407
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
上谷 幸治郎 東京理科大学, 工学部工業化学科, 講師 (20733306)
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研究分担者 |
宇都 卓也 宮崎大学, 工学部, 准教授 (60749084)
安藤 大将 秋田県立大学, 木材高度加工研究所, 助教 (10751034)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | セルロースナノファイバー / 界面制御 / イオン添加 / 熱拡散率 |
研究実績の概要 |
本研究では、様々な生物原料から得られるセルロースナノファイバー(CNF)材料の精密高機能化に向けて、CNFの集積構造ならびに界面構造を制御し、材料物性をスペクトル学的に解明することを目指す。2022年度は、CNFに見出された高い熱伝導性がCNFの結晶構造のみならずCNF間の接着界面の性状にも影響されることに着目し、CNFフィルムに各種多価金属イオンを導入することで伝熱性の制御・向上性を詳細に調査した。木材ならびにホヤ殻からTEMPO酸化処理によりCNFを製造し、それらのフィルムに各種金属陽イオンを添加した。乾燥環境下で養生した後、およそ5%RH以下の低湿度を維持した環境中でフィルムの熱拡散率を測定した。その結果、CNFフィルムに添加した金属イオンのイオン半径が小さくなるほど、またイオン金属種の電気陰性度が大きくなるほど、フィルムの面内方向熱拡散率が向上した。CNFフィルムの熱拡散率は、その表面官能基がプロトンで中和されたカルボキシ基であるとき最大化することが確認された。また、分子動力学(MD)計算により、金属イオンはCNF表面同士のカルボキシ基間で選択的に架橋構造を形成するのではなく、CNFの表面に偏在していることが判明した。CNF表面におけるイオンの空間分布は、金属イオンとカルボキシ基の酸素原子の間の最近接距離によって決定され、この距離はイオン半径および実測の熱拡散率と相関した。カルボキシ基間に架橋構造を形成しにくいと考えられるプロトンやナトリウムイオンなど一価イオンでも、多価イオンが示すイオン半径や電気陰性度と熱拡散性との傾向に合致した本結果は、金属イオンがCNF間界面ではなくCNF表面のみに偏在することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、本研究全体で目標とする項目すべてに着手し、論文掲載成果および各項目での達成見込みが得られ、また課題点を洗い出すことができたため、おおむね順調に進展している。CNFフィルムの面外紙力について、解繊度の変化に対する引き裂き強度を解析し、強度向上に向けて一定の指針が得られた。捻れたCNFの束なり構造と相互作用力の解析について、有限要素モデルの表面に個別パラメータを付与したポテンシャル関数を用いて相互作用力の総和を算定するシステムを用い、設定パラメータを反映した計算が進められることを確認した。また、上記のCNFフィルムの界面が駆動する伝熱制御性については、多価金属イオンのイオン半径がフィルムの熱拡散率に反比例する結果が得られ、論文報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、当初の計画の通り研究課題を推進する。CNFフィルムの面外紙力向上に対して、解繊度に加えて集積状態制御を加えた解析を進め、さらなる強度向上を目指す。繊維間相互作用力の解析課題については、研究分担者とよく連携し、従来取り組まれなかった新たな化学反応ならびに計算化学的手法を取り入れ、多角的な視点により分析を高度化させる。また、解繊度を制御したパルプ・CNFを活用する「解繊度エンジニアリング」より広範に応用展開させるため、派生的な発想に基づく新たな取り組みも推進する。
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