研究課題/領域番号 |
22H02417
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
峰岸 有紀 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (80793588)
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研究分担者 |
早川 淳 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (10706427)
黄 國成 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (40526901)
松村 義正 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (70631399)
福場 辰洋 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 技術開発部, 主任研究員 (80401272)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 自動濾過装置 / 幼生分散 |
研究実績の概要 |
自動現場濾過装置については順調に製作・改良を進めた。2022年中に大槌湾内での係留・サンプリング試験を行い、良好な結果を得た。これを受けて、エゾアワビの本来の産卵期中の2023年9月末に装置を大槌湾に投入し、携帯通信網を介した遠隔制御によるオペレーションにより1週間程度係留・サンプリングを行うことができた。環境DNA分析のための定量PCR系を確立し、自動現場濾過装置で取得したサンプルの解析を行ったところ、エゾアワビのDNAを十分な感度で検出することができ、自動濾過装置および定量PCR系が良好に作動することを確認した。また、潜水による定期調査を継続し、個体密度、成熟の程度、稚貝の分布等を観察し、モニタリングデータの蓄積を進めた。これに加え、産卵期前から産卵期後のおよそ半年にわたって、船艇による環境DNA分析のための定期採水を実施し、61サンプルを取得することができた。海洋物理の面では、大槌湾を約15mの高い空間解像度で表現する3次元流動場シミュレーションを用いる粒子追跡実験システムを構築した。粒子の鉛直移動や着底判定にアワビ卵・幼生の生態を反映させている。気候値強制による予備的実験で湾内の着底分布の推定を実施し、現場での目視観測による知見とある程度整合する結果を得た。 昨年度および今年度にかけて、それぞれが担当する研究内容を着実に進めることができ、エゾアワビの繁殖生態および幼生分散の過程を推定するための素地をほぼ整えることができた。来年度の産卵期には、自動濾過装置を投入し、台風・大きな時化に合わせたサンプリングおよび定期採水を実施する予定である。これにより、繁殖のタイミングの特定を目指すとともに、それらの情報と潜水調査で得られる情報を粒子追跡実験に条件として付与し、幼生分散過程の推定を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
繁殖のタイミングや幼生分散過程の推定を目指し、本年度のエゾアワビの産卵期(晩夏から秋)を前に、粒子追跡実験に付与する生物および環境データを本格的に取得する準備を整えることができた。しかし、2023年度は放卵放精のトリガーとなる台風や大きな時化が観測史上初めて来なかった年となったため、明瞭な繁殖のタイミングを捉えることができず、ひいては、幼生分散過程の推定を試みることができなかった。そこで、定期潜水および採水で取得したデータをその代替として分析している。これにより、当初想定はしていなかったものの、台風・大きな時化がない場合の繁殖生態および幼生分散の過程をある程度推定できるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は最終年度であり、これまでに開発した自動濾過装置や定量PCR系、潜水調査で得られる情報を付与して粒子追跡シミュレーションを行い、大槌湾におけるエゾアワビの繁殖生態および幼生分散の過程の推定を目指す。具体的には、産卵期前もしくは初期に自動濾過装置を投入・交換し、台風や大型の時化のタイミングに合わせて時間的に密なサンプリングを行い、繁殖のタイミングを特定する。一方で、定期潜水および採水も行い、個体群密度や環境DNA濃度などの情報を長期的に取得する。以上の情報を付与して粒子追跡シミュレーションを実施する。また、2023年度、台風・時化のなかった年とも比較することで、大槌湾における幼生分散の過程を再現する。
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