研究課題
昨年度までの結果から、ゼブラフィッシュおよびヤマメにおいて、卵濾胞の成熟および排卵の過程で特異的な代謝現象が発生することが考えられた。今年度はトレーサーを導入した培養実験を繰り返し、より詳細にこれを検討した。その結果、特にグルコースを利用した代謝に特徴的な変化が見られた。すなわち、卵形成の早期の段階では一定の経路への代謝が活発に起こり、その後、別の経路へと代謝活性が移行した。排卵後では、グルコースの取り込みそのものがほとんど起こっていない様子が観察された。一方で、乳酸やアラニンの取り込みは排卵後でも起こり、どちらもクエン酸回路の代謝物へ返還されている様子が見られた。特に、グルコースを利用した上記経路の代謝が興味深く変動していたため、これらの代謝経路を触媒する遺伝子に着目し、in situ hybridizationによりその発現部位を特定した。その結果、卵母細胞に発現するものや、顆粒膜細胞に発現するものがあった。これまでの結果から、排卵前後のグルコースを用いた代謝のモデルを作成中である。現在のところ、グルコースは濾胞細胞層、恐らく顆粒膜細胞により外部から吸収され、ここで上記経路を介して変換され、ギャップ結合を介して卵母細胞へ輸送されることを想定している。また、乳酸やアラニンについては、顆粒膜細胞と卵母細胞の両方で吸収されうる可能性がある。また、上記とは少し異なる内容となるが、卵形成の特定の時期に高発現する酵素がプロテオーム解析で見つかった。現在、このタンパク質をコードする遺伝子のmRNA発現解析を行っている最中であり、卵における機能にも今後迫る予定である。
2: おおむね順調に進展している
予定していた実験については滞りなく進んでいる。また、当初予期していなかったタンパク質が卵の成熟過程で高発現していたため、これについても今後解析を進める予定である。
魚類の卵の成長や成熟は、様々なホルモンにより高度に調節されていることが知られている。また、一部の成長関連ホルモンは傍分泌あるいは自己分泌的に働き、さらにこの発現が栄養素により調節されることも知られている。したがって今後は、これまでに行ったゼブラフィッシュでの実験方法に対して、新たにホルモンや外部の栄養素の状態等の変化を加え、これが卵濾胞における代謝の変化をもたらすか否かを検討する。まずは、ゼブラフィッシュより卵濾胞を摘出し、卵の成長や成熟を調節するホルモンの存在下で培養し、代謝の変化を観測する。代謝の変化が見られた場合、RNAやタンパク質の発現量を比較することで、ホルモンによる代謝調節のメカニズムに迫る予定である。同様の実験を、培養液に添加する栄養素を変化させることでも検討したい。
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PNAS Nexus
巻: 3 ページ: pgae125
10.1093/pnasnexus/pgae125