研究課題/領域番号 |
22H02430
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
酒井 隆一 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (20265721)
|
研究分担者 |
高田 礼人 北海道大学, 人獣共通感染症国際共同研究所, 教授 (10292062)
田中 良和 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (20374225)
松本 健 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 専任研究員 (60222311)
八代田 陽子 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 副チームリーダー (60360658)
荒木 真理人 順天堂大学, 大学院医学研究科, 客員教授 (80613843)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 海洋天然物 / 毒素 / 小胞輸送 / エンドサイトーシス / トロンボポエチン受容体 / レクチン |
研究実績の概要 |
細胞やオルガネラ間の情報伝達や物質輸送を絶えず行う動的応答は生命の本質といえる.本研究では,海洋生物の水溶性抽出物に着目,小分子からタンパク質に至る多数の生理活性物質を探索し,それらが生体膜境界面および細胞内における細胞の動的応答を巧みに制御する機能を持つことを見出すことで、未解明の細胞の動的応答への理解を深める.初年度は、先行研究に引き続き、トロンボポエチン様作用を示す海綿レクチン、トロンボコルチシン(ThC)の作用機序の解明を行い、フコース結合性レクチンであるThCがTPO受容体の糖鎖に結合することで受容体の2量化を促進し、活性化することを明らかにし、論文発表した。同じくポリアミンペプチドアーキュレイン(Acu)の細胞侵入機構について質量分析および免疫細胞染色を用いて解明し、Acuがヘパリン等の細胞表面陰イオン性分子に結合し、細胞膜の攪乱およびエンドサイトーシスの両者の機構で侵入することを示し、論文発表した。また、パラオ産海綿由来の細胞侵入タンパク質のN-末端アミノ酸配列を得るとともに、海綿の採集を行い、mRNAを抽出した。細胞内の物質輸送経路を阻害していると推測されたアルカロイドKB343の作用機構について主に細胞の形態観察を行い検討した。その結果、KB343は細胞に作用すると極めて特異な核や細胞骨格の変形を引き起こすことを見出したが、類似する変化を引き起こす既存分子がないことから、特異な作用機序を持つと予測している。ウイルスは細胞の動的応答を利用し細胞内に侵入・増殖する。強い抗ウイルス作用を示す化合物の探索から見出された化合物Aはリゾトラッカー染色によりエンドソームの酸性化を促進していることが分かった。また、ウイルスがエンドソーム脱却し、細胞内に移行する経路を阻害している可能性も示唆された。このほかにもこれまでにない機構で強い抗ウイルス作用を示す化合物を得ている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小胞輸送や受容体応答など細胞の動的応答を制御する化合物を、抗ウイルス作用などと組み合わせたユニークな評価系を総合的に織り交ぜながら進める本研究のコンセプトは初年度でおおよそ検証され、非常にユニークな生理活性物質を見出すことができる計画であることが立証された。エボラウイルス、デングウイルス、新型コロナウイルス等の侵入機構の異なる系を用いて、いくつかの抗ウイルス化合物を見出し、それぞれ極めて興味深い機構で抗ウイルス作用を示していることがわかってきた。次年度はこれらの物質の抗ウイルス機構をさらに詳細に調べるとともに、海綿のタンパク質毒素であるソリテシジン(SOR)のような細胞侵入性毒素を用い、その活性を阻害する物質の探索を進めることで、さらにユニークな物質の発見を推進する。また、新規のアッセイの開発も進んでおり化合物の探索が加速されると期待している。本研究では、同時に進行していたAMED eASIA(2019-2023)の国際共同研究「フラビウィルスに対する新規薬剤を創出するための国際連携基盤の構築」と良好なシナジーを生み、3月には函館で国際合同シンポジウムを開催するに至った。2年目以降はeASIAで得られた成果を本研究でさらに発展させることができると期待している。一方、SORの核侵入機構は、発現タンパク質の安定性の問題で、最小タンパク質を安定的に供給できないという課題がある。本年度は天然物を用いた実験を中心に核侵入機構を探りたい。トリスグアニジンアルカロイドKB343の作用機構は非常に特異な細胞応答を示し、興味深い知見が次々と得られているが、その機構の特定は難航している。幸い天然物の確保ができているので、標的タンパク質のつり上げ等の手法を試行する予定である。これまでの研究でTPO受容体を活性化する抽出物がいくつか見出されているので、その分離と物質の同定を進めることも急務である。
|
今後の研究の推進方策 |
探索研究:海洋生物の採集を引き続き行い、細胞毒性、抗ウイルス作用を持つ化合物の探索を引き続き行い、抗ウイルス作用を示すものについては、ウイルスの侵入を阻害する化合物と細胞応答を制御する化合物を識別するためにエントリー試験、リゾトラッカーによるエンドソーム酸性化を確認する。細胞の応答を制御している可能性があるものについては、細胞周期、細胞の形態、細胞内代謝(タンパク質合成阻害、酵素阻害)等を確認するとともに、ケミカルゲノミクスの手法でターゲットの特定を図る。また引き続きコロナウイルスのプロテアーゼ活性を効率的に評価するアッセイ法および、簡易にタンパク質合成阻害を確認するレポーターアッセイを確立し、探索に用いる。 細胞侵入タンパク質:SORは細胞に侵入し、核に到達することで細胞毒性を示す。その詳細を探るためにタイムラプス蛍光顕微鏡を用いて細胞内の移動経路を経時的に追うとともにそれに対する阻害剤の影響を調べる。また、SORの毒性を阻害する化合物を海洋生物抽出物より見出すための条件検討とスクリーニングを行う。細胞侵入レクチンについてはcDNAを海綿より取得し、3-および5-‘RACE法により塩基配列を決定、レクチンのアミノ酸配列を推定する。またX-線結晶構造解析を行い立体構造についても情報を得る。また蛍光ラベル化した各種レクチンの細胞侵入性、細胞毒性を調べ、細胞侵入に必要な要素を見出す。 KB343研究:現在実施中の細胞の形態・動態観察に加えKB343のグアニジン基もしくはカルボニル基にリンカーを結合させ、固定化もしくはラベル化し、細胞内の標的タンパク質のつり上げや、細胞内での移行経路について知見を得る。 TPO受容体に作用する化合物に関しても、現有する活性化合物の分離・精製を進めるとともに新たな化合物の発掘を進める。
|