研究課題/領域番号 |
22H02431
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井尻 成保 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (90425421)
|
研究分担者 |
木村 敦 北海道大学, 理学研究院, 教授 (90422005)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | サクラマス / 卵巣分化 / 卵成長 / 卵成熟 / ステロイド合成 / ウナギ / チョウザメ / ティラピア |
研究実績の概要 |
本研究は、条鰭類全体の卵巣分化・発達を通したステロイドホルモン合成系の変化を、その代謝酵素の転写調節の面から明らかにする。 (1)組換えFSH、LHの作製:ステロイド産生は主にFSHとLHによって制御されており、各研究対象魚種の組換えホルモンはある程度作製した。 (2)ティラピア、ウナギのcyp19a1:分子的性分化開始時のティラピア遺伝的雌仔魚に組換えFSHを腹腔内投与したところ、cyp19a1(アロマターゼ)の発現が増加する傾向が見られたが、顕著な上昇は見られなかった。Cyp19a1遺伝子のプロモーター解析では、転写因子sf1、foxl2の両存在下で転写活性は上がり、FSHシグナルはその活性化を増強する程度であった。投与実験の結果とも一致し、cyp19a1の転写はFSHの関与はあるものの主要要因ではないと考えられた。ウナギcyp19a1遺伝子プロモーター解析ではsf1、foxl2a、FSHシグナルの全ての存在下で最も高い転写活性化が見られた。ティラピアとは異なりFSHシグナルの関与はかなり強いことが示された。 (3)サクラマスhsd17b12L:DHP産生を直接制御するサクラマスhsd17b12L遺伝子のプロモーターは、LHのみでは転写活性は上昇せず、未知の転写因子の介在が考えられた。遺伝子発現解析による探索により複数の転写因子を転写に関わる候補因子として選抜した。 (4)ウナギcyp17:プロモーター解析ではcyp17a1はLHシグナルに反応しないが、cyp17a2は転写活性が上昇した。 以上の結果は、ステロイド代謝酵素はLH、FSHによる単純な発現調節ではなく、様々な転写因子が関わる複雑な調節機構であり、それぞれの酵素にそれぞれ異なった転写調節因子が関わっていることを示している。その機構はcyp19を除いてほとんど解っておらず、これを解明する意義は大きい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)ウナギ、ティラピアの組換えFSHはHEK293F細胞で作製し、精製も完了した。チョウザメではS2細胞を用いて組換えLHは作製、精製が完了した。FSHは作製されているが精製には至っていない。S2細胞によるFSH産生量は多くはなく、HEK293Fで作り直す必要があるかもしれない。 (2)ティラピアcyp19a1の発現調節解析は完了した。ウナギcyp19a1の解析では、ウナギにはfoxl2a以外にfoxl2b、foxl3が分化開始直後の精巣で発現しているため、これら全てを含めた解析をさらに進める必要がある。また、ウナギcyp19a1はマルチプルプロモーター構造を持つことも新たに解り、卵巣で働くプロモーターのみで解析しなおす必要もある。 (3)サクラマスhsd17b12Lは顆粒膜細胞培養ではLH刺激のみで顕著な発現誘導が見られるが、そのプロモーターはLH刺激のみでは転写活性化されないことが解り、その転写に関わる未知の転写因子の同定を進める必要があると判断された。 (4)ウナギcyp17a2のプロモーターはLH刺激で活性化されるため、単純にLHシグナルにより調節されていると考えられた。Cyp17a1プロモーターはLHシグナルには反応せず、どのように制御されているのかは分からない。卵濾胞培養でもcyp17a1発現は誘導できないため関与因子の探索の方策は今のところない。ただ、cyp17a1に関しては発現誘導ではなく発現消失がDHP産生の鍵であるので、発現消失機構を調べることが重要である。本年度は卵成熟誘導前後の卵巣サンプルで、発現が消失した卵巣を得ることができたことから、このサンプルからプロモーター領域の修飾状況と発現の関係を調べることができると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)チョウザメ組換えFSHに関してはS2細胞で作製したFSHを精製する。精製量が少ない場合にはHEK293F細胞を用いて作り直すこととする。 (2)ウナギcyp19a1のプロモーター解析では、ここまで用いた5kbの上流配列から、卵巣で働くプロモーター領域のみを単離して、再度sf1、foxl2a、FSHシグナルによる転写活性化を調べる。さらに、精巣分化中の生殖腺で発現するfoxl2b、foxl3がcyp19a1の転写に及ぼす影響について調べる。Foxl2b、foxl3がfoxl2aに競合してcyp19a1転写を阻害しているかどうか、つまり卵巣分化抑制機構の存在を明らかにする。 (3)サクラマスhsd17b12Lの転写活性に関わる候補因子は複数選抜した。これら候補因子のin vivo、in vitroにおける発現状況を調べることによって候補をさらに絞り込む。絞り込んだ候補はプロモーター解析によって、hsd17b12L転写への関りを明らかにする。 (4)ウナギcyp17a1の転写抑制については、発現が消失する前後の卵巣における遺伝子上流領域の修飾を調べ、DNA修飾による転写抑制機構の存在の有無を明らかにする。可能な限り、特定のヒストンの修飾状況も調べ、cyp17a1発現への関与の有無に見当を付ける。 (5)チョウザメに関しては、まずcyp19a1を単離して卵巣発達に伴う発現状況を調べる。既に卵巣分化直後には既にcyp19a1の発現が高まっていることは解っており、ティラピア、ウナギ同様にチョウザメでもcyp19a1遺伝子の転写活性化が卵巣分化開始には必須であると考えられる。チョウザメでもティラピア、ウナギ同様に関連転写因子とFSHシグナルによるcyp19a1プロモーターの転写調節を調べる。他のステロイド代謝酵素遺伝子の上流領域についても、可能な限り単離してプロモーター解析の準備を進める。
|