研究課題/領域番号 |
22H02465
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
白神 慧一郎 京都大学, 農学研究科, 助教 (80795021)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | トレハロース / 二糖 / 水和 / 誘電分光 |
研究実績の概要 |
本年度は0.5~50 GHzをカバーするベクトルネットワークアナライザー、ならびペルチェ素子ユニットを組み込むことで温度調整が可能なサンプルチャンバーを導入したことで、-20~90℃にわたってマイクロ波帯の誘電分光を行うことができるようになった。これによって、これまでに構築していたミリ波分光システム、テラヘルツ波分光システム、赤外分光システムと組み合わせることで、幅広い温度域において周波数範囲6桁(0.5 GHz~230 THz)に及ぶ“超”広帯域分光スペクトルをギャップレスに測定することが可能になった。 そしてこの超広帯域測定系を用いて、トレハロースとタンパク質(アルブミン)を含む水溶液中の分光測定・解析を実施し、トレハロースがどのようにタンパク質の機能を保護しているのかを明らかにする研究を行なった。タンパク質は周囲を水和水に取り囲まれることで特有の高次構造を維持しているものの、温度などの周辺環境が大きく変化するとタンパク質-水和水の相互作用も変化することでタンパク質の変性を引き起こしてしまう。本研究では、トレハロースはタンパク質を取り巻く水和水の揺らぎを抑えることで、結果的にタンパク質の構造自体を安定化させているという描像が明らかになった。これは、トレハロースはタンパク質に対して直接的に生体保護機能を発揮しているのではなく、トレハロースは“水を介して”タンパク質を保護していることを示している。また、グリセロールもトレハロースと同様に生体保護機能を示す低分子であることが知られているものの、上述した水和水の揺らぎを抑える効果はトレハロースがグリセロールに勝っていることもわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、ベクトルネットワークアナライザーを用いて温度依存的にマイクロ波帯の誘電分光を実施できるようにすることを目標としていた。試作したペルチェ素子製の温度チャンバーを用いることで、氷点下から80℃程度にわたって精密に温度制御しながら誘電分光を行うことが確認できたため、本年度予定していた【超広帯域分光測定系の構築】は順調に進展していると考えている。 また、トレハロースがタンパク質などの高分子に対して生体保護機能を示す機序を明らかにする研究を一部先行して実施したところ、トレハロースは水を介してタンパク質の高次構造を安定化させていることを示す予備的な知見が見出された。この知見は、水分子の観点から生体保護機能を理解する重要性を強調するものであり、以上を踏まえると本年度は当初の計画以上に研究が進展したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
幅広い濃度・温度条件のもとで、代表的な二糖水溶液(トレハロース・スクロース・マルトース・ラクトース)の誘電分光を行って、温度・濃度・溶質依存的にスペクトルデータを取得する。温度依存性データについては、アレニウスプロット解析することで水和水の活性化エネルギーを導出するとともに、低温下における水和水の分子ダイナミクスや水素結合構造を直接観測することで、トレハロースをとりまく水和水が特徴的な分子挙動を示す可動化を明らかにする。また、誘電分光に加えて赤外分光も実施し、赤外領域に現れる二糖の官能基振動に由来する吸収ピークに着目した解析も行い、誘電分光との相関解析を実施することで、二糖の骨格や水素結合のパターンと水和水ダイナミクスの関係性を可視化する。 さらに、二頭に限らずトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)やグリセロールといった、生体保護機能を有することが知られている生体分子についても幅広く 同様の測定・解析を実施することで、二糖分子に特有な分子ダイナミクスが存在するか否かを明らかにする。
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