研究課題/領域番号 |
22H02488
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小池 聡 北海道大学, 農学研究院, 教授 (90431353)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 子牛 / 腸内環境 / 消化管微生物 / 健全発育 |
研究実績の概要 |
本研究では自発的な固形飼料摂取が始まる前に粗飼料の早期経口投与を実施し、子牛消化管微生物の積極的な定着コントロールの可能性を探った。 前年度に開始した新生子牛を対象とした試験では、哺乳期における粗飼料の早期経口投与の有益な効果、すなわち生後21日までの増体の向上ならびに消化管(ルーメンおよび腸内)での有用菌の増加が確認された。 本年度は試験対象牛を同一農場にて同一の飼料条件で継続飼養し、哺乳期の飼養管理の違いがその後の生産性に及ぼす影響の追跡調査に着手した。これまでのところ、9ヶ月齢時点での体重や飼料摂取量には試験区間で違いが見られなかった。ルーメン内容物の解析を実施したところ、VFA産生量と組成ならびに菌叢構成にも明確な違いは認められなかった。したがって、哺乳期における粗飼料の早期経口投与は、育成期における発育ならびにルーメン発酵に影響を及ぼさないことが確認された。 前年度の試験において、粗飼料の早期経口投与により、腸内(糞便中)のLactobacillus属細菌が増加することを確認した。本年度はロングリードシーケンサーを用いて、Lactobacillus属細菌の種レベルでの特定を試みた。16S rRNA遺伝子解析より特定されたLactobacillus属細菌の約50%は未培養の細菌種であったが、残り50%はLactobaciilus reuteri、Lactobacillus gasseriおよびLactobacillus johnsoniiであった。これらの3種の乳酸菌はいずれもプロバイオティック効果を持つことが報告されている。したがって、粗飼料の早期経口投与により子牛の腸内では有用な乳酸菌が増殖することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
哺乳期における粗飼料の早期経口投与試験を修了した後、同一条件下で供試牛を管理し、継続モニタリングを実施している。9ヶ月齢の時点では処理による影響は認められなかったため、早期飼養管理による消化管細菌の定着コントロールについては持続的な効果は期待できない可能性がある。一方、乳牛では分娩期から泌乳期にかけて飼料の栄養含量が大きく変化し、消化管細菌叢のバランスが撹乱されることが予想される。こういった外的要因による菌叢変化の様相についても、処理による影響の有無を確認する必要がある。これまでのところ、すべての供試動物は順調に生育しており、2024年度前半には分娩を予定している。周産期の健康状態や分娩後の乳生産とルーメン発酵などモニタリングを継続する。 一方、生産現場への応用を考えた場合、粗飼料の経口投与はより簡便に実施できるように工夫が必要となる。そこで、投与量を減らして簡便に対応出来る条件の検討、くわえて、代用乳に粗飼料を添加して給与効果を査定する試験の準備を進めている。 粗飼料の早期経口投与により生後21日までに確認された腸内での乳酸菌増加については、有益な効果が期待されるLactobacillus属細菌の3種を特定できた。これにより、次年度は純菌培養によって有用細菌の増殖促進機序を検討する事が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では哺乳期に繊維飼料を経口投与した子牛を継続飼養し、初産時の泌乳成績に及ぼす影響を評価する予定である。したがって、試験に供した子牛は引き続き飼養を継続するが、いずれの個体も順調に生育しており、予定通り継続的なモニタリングを実施できると考えている。 一方、経口投与する繊維飼料の量や方法については、生産現場への応用を考えると検討の余地があるため、応用を見据えた給与量や給与方法の検討についても具体的な準備を進めている。 動物試験、試料分析ともに申請者の研究グループはこれまで十分な実績があり、研究計画通りに推進できると考えている。ただし、動物試験では予期せぬトラ ブルが起こる可能性は十分にあるため、供試個体数を10頭以上確保し、十分なデータの取得に努める。
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