研究課題/領域番号 |
22H02494
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
真方 文絵 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (50635208)
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研究分担者 |
羽田 真悟 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (40553441)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 子宮内膜炎 / リポポリサッカライド / キャリーオーバー効果 / キスペプチン / 黄体形成ホルモン / 視床下部 / 下垂体 / シバヤギ |
研究実績の概要 |
子宮内膜炎は高泌乳牛に頻発し,臨床的に子宮が治癒しても長期にわたり受胎性が低下する。本研究では,炎症時の即時的な影響に加え,治癒後も継続的に卵巣機能を低下させる残存影響 (=キャリーオーバー効果) の原因分子として,起因菌の毒素であるリポポリサッカライド (LPS) に着目し,生殖機能を制御する視床下部-下垂体-卵巣軸の「どこに,どのように,いつまで」LPSが作用することでキャリーオーバー効果を引き起こすのかを明確にすることを目的とした。 2022年度は視床下部と下垂体におよぼすLPSの作用を検証した。ウシおよびヤギにおいて,キスペプチンニューロンが分布する視床下部の弓状核と視索前野,および下垂体前葉組織におけるLPS受容体遺伝子 (TLR4,CD14,およびMD2) の発現を確認した。また,LPSを皮下投与した雌ラットにおいて,脳脊髄液中のLPS濃度が増加したことから,視床下部および下垂体にLPSが直接作用する可能性を示した。さらに,成熟雌ヤギへの静脈内LPS持続投与によって黄体形成ホルモンのパルス状分泌頻度が低下したことから, 卵胞発育を制御する黄体形成ホルモン分泌をLPSが抑制することを明らかにした。卵胞発育中枢におよぼすLPSの作用について,卵巣除去後にLPSを皮下投与したラットをもちいて精査したところ,血中からLPSが消失したあとも黄体形成ホルモンのパルス状分泌低下が継続したとともに,卵巣の周期的な活動が停止した。一方,視床下部におけるキスペプチン遺伝子発現細胞数およびキスペプチン受容体遺伝子発現量の低下は血中にLPSが存在する急性期のみに認められた。これらの結果は,LPSが卵胞発育中枢に作用することでキャリーオーバー効果を引き起こすとともに,炎症の時期特異的にLPSの作用部位が変化する可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,卵胞発育中枢におよぼすLPSの作用についてヤギおよびラットを用いて検証し,血中のLPSが脳脊髄液に移行して視床下部および下垂体に直接作用する可能性を示したとともに,卵胞発育を制御する黄体形成ホルモンの分泌抑制を引き起こすことを明らかにした。また,血中からLPSが消失した後も持続する黄体形成ホルモン分泌抑制がキャリーオーバー効果の一因であるとともに,炎症の時期特異的にLPSの作用部位が変化する可能性を見出した。現在は,ヤギ視床下部不死化神経細胞株 (キスペプチンニューロン不死化細胞株とGnRHニューロン不死化細胞株) を用い,LPSが視床下部ニューロンの細胞活動におよぼす作用を分子学的に解析している。
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今後の研究の推進方策 |
LPSによる黄体形成ホルモン分泌抑制の機序を明らかにするため,キスペプチンニューロンが分布する視床下部弓状核に多ニューロン発火活動 (MUA) 電極を留置した雌ヤギにLPSを投与し,炎症誘導時 (即時的影響) および炎症の終息後 (キャリーオーバー効果) における視床下部の神経活動におよぼすLPSの作用をリアルタイムでモニターする。また,視床下部弓状核においてキスペプチンニューロンに共発現して性腺刺激ホルモン放出ホルモン分泌を抑制するダイノルフィンの受容体拮抗薬をLPSと同時に投与し,視床下部の神経活動と黄体形成ホルモン分泌動態を解析する。さらに,LPSが視床下部ニューロンの細胞活動におよぼす作用を分子学的に解析するため,ヤギ視床下部キスペプチンニューロン不死化細胞株とGnRHニューロン不死化細胞株をLPS添加培地で培養し,キスペプチン/GnRH遺伝子の発現量を解析する。
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