研究課題
アンメット・メディカルニーズとは、未だ有効な治療方法や薬剤がない医療へのニーズを示す。獣医療においてもアンメット・メディカルニーズは難治性疾病を中心に存在する。そこでこれまで開発を進めてきた動物用免疫チェックポイント阻害薬を基盤とした副作用が小さく、より高い奏効率を発揮する発展的な新規治療・予防技術の構築を行い将来的な社会実装・実用化に向けた臨床知見を収集する。今年度は、牛伝染性リンパ腫ならびにイヌの口腔悪性黒色腫における免疫チェックポイントを標的とした病態解析を実施した。その結果、牛伝染性リンパ腫発症牛の腫瘍部に浸潤しているリンパ球では免疫チェックポイント因子PD-1に加えTIM-3も発現し、抗腫瘍免疫が抑制されていることが確認された。そこで牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)感染牛の疲弊化リンパ球を用いてPD-1及びTIM-3に対する両抗体を用いた経路阻害試験を行った結果、それぞれの単独阻害に比べ、有意に強い抗ウイルス効果を示した。一方、抗PD-L1抗体治療を行ったイヌの口腔悪性黒色腫症例の予後を反映するバイオマーカーを探索した結果、同じ治療を受けた症例でも、血中のプロスタグランジンE2(PGE2)が高い症例では、予後が不良であることが確認された。これまでの解析から牛伝染性リンパ腫、ヨーネ病、マイコプラズマ症でもPGE2が免疫を著しく抑制していることが確認されており、PGE2は病態促進ならびに治療効果の阻害に関与する重要な因子であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究により、牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)感染症の免疫抑制と病勢進行には、PD-1やPD-L1などの免疫チェックポイント分子が、重要な役割を担うことを明らかにしてきた。さらに、他の免疫チェックポイント分子であるTIM-3も免疫抑制に関与していることも明らかにした。そこで今年度は、BLV感染牛における複数の免疫チェックポイント分子による免疫抑制分子基盤を解析した。その結果、発症牛のリンパ腫に浸潤するCD4+及びCD8+ T細胞はTIM-3を発現していることが確認された。また、末梢CD4+及びCD8+T細胞はTIM-3とPD-1を共発現していることを明らかにした。一方、抗TIM-3抗体を用いて同経路を遮断すると、T細胞からのIFN-γ産生や抗ウイルス作用の回復が認められた。興味深いことに、TIM-3経路とPD-1経路の同時阻害は、それぞれの単独阻害に比べさらに強い抗ウイルス効果を示した。イヌの口腔悪性黒色腫(OMM)において、免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-L1抗体)により奏効を示す症例は一部にとどまる。そこで、抗PD-L1抗体治療を行った症例において、予後を反映するバイオマーカーを探索した。検証した12因子のうち、血中のプロスタグランジンE2(PGE2)、IL-12p40、IL-8、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)などは、健康犬(n = 8)と比べてOMM罹患犬で高かった。さらに、血清PGE2、MCP-1、血管内皮増殖因子(VEGF)-A濃度が低く、IL-2、IL-12、SCF濃度が高い症例では、全生存期間が有意に延長していることが明らかとなった。
今年度行った牛伝染性リンパ腫の研究から、TIM-3の発現亢進が腫瘍形成に関連する免疫抑制の一因であることが示唆された。また、腫瘍浸潤T細胞はPD-1とTIM-3を共発現しており、PD-1とTIM-3を同時に阻害することで、PD-1とTIM-3の再活性化が可能であることも示され、これらの因子が併用療法の候補ターゲットとなることが示唆された。また、腫瘍罹患犬における解析からPGE2は免疫抑制を通じて抗PD-L1療法に対する抵抗性を付与していることが明らかとなり、PGE2が奏効向上の標的となりうることが示唆された。予備試験において、PGE2はT細胞からのIL-2およびIFN-γの産生を抑制した。一方、PGE2産生阻害薬(COX-2阻害剤)とPD-L1抗体との併用ではサイトカイン産生の回復が認められた。今年度の成果から、今後は抗PD-L1療法とCOX-2阻害剤の併用が実際に抗腫瘍効果を高めるかを検証していきたい。
研究室HP:https://lab-inf.vetmed.hokudai.ac.jp富永 みその: 令和4年度日本産業動物獣医学会(北海道)「奨励賞」受賞青木 絵理: 第165回日本獣医学会学術集会・日本獣医学会学術集会優秀発表賞(微生物分科会)受賞
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (18件) (うち国際共著 2件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 12件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 6件、 招待講演 9件) 図書 (2件) 備考 (5件)
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