研究課題
本研究の目的は、感染した牛の体内で起こる牛タイレリア(Theileria orientalis)の一連の増殖メカニズムを科学的に明らかにし、牛小型ピロプラズマ病に対する新規治療薬の開発に資する創造型学術基盤を整備することにある。そこで2022-2023年度では、牛タイレリアの生活環を再現できるマダニ-牛マウス感染評価モデル系の評価を行った。すなわち、1)牛赤血球に置換した免疫不全マウス(牛マウス)に牛タイレリアを感染させ、牛のみで起こる赤血球内増殖がマウス体内で再現できること、また2)媒介マダニ種として知られるフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)を感染牛マウスに吸血させ、その感染マダニの唾液腺内にスポロゾイト期(次の牛に感染するためのステージ)の牛タイレリアが成熟することを確認した。一方で、3)日本には、2種類の大型ピロプラズマ(牛バベシア:Babesia ovataとBabesia sp.)が存在し、牛タイレリアと共感染した場合は感染牛の貧血発症率と重症度を引き上げてしまうこと、4)中央アジアに位置するキルギス国で放牧されている牛の約8割が牛タイレリアに感染しており、日本で見られる強毒型(タイプ2)は存在せず、その遺伝子型は弱毒型のタイプ1と3であったこと、5)スリランカとパラグアイの馬タイレリア(Theileria equi)の遺伝子解析を行った結果、5つの遺伝子型(タイプAからE)で構成される高度な遺伝子多型が存在することが示された。
2: おおむね順調に進展している
牛タイレリアの生活環を再現できる感染評価モデル系を確認できたことから、概ね順調に進展していると評価する。また、日本やアジアの牛ピロプラズマ(タイレリアとバベシア)の感染状況や問題点を整理でき、かつ同属の馬タイレリアの高度な遺伝子多型の実態も明らかにできたことは、想定外の有益な成果となった。
今後は、牛タイレリアの生活環を一周できる“マダニ-牛マウス感染評価モデル系”を確立・評価し、本評価モデル系を用いて、それぞれの原虫ステージに関わる形態学的、生物学的、及び遺伝学的特徴を解明する。また、ここまでの成果を基に、“シゾント期-メロゾイト期-ガメート期原虫の試験管内連続培養法”を確立する。さらに、自然感染牛の臨床・病理サンプルを解析し、上記二つの実験室内評価モデル系で明らかとなった事象を牛生体内で実証する。一方で、薬剤スクリーニングに適したプロトタイプの新簡易評価系も試作する。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) 備考 (2件)
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