研究課題/領域番号 |
22H02531
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
今村 拓也 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 教授 (90390682)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ノンコーディングRNA / エピゲノム / 大脳 / 神経幹細胞 / 進化 |
研究実績の概要 |
獣医学・畜産学領域ではさまざまな動物を取り扱うため、個体や臓器の高度な活用や疾病治療に向けては、種にしたがったロジックの違いをよく理解するための動物生命科学を発展させる必要がある。本研究では、全く新しい潮流として、ヒト・非ヒト霊長類・マウスを分ける分子群、特に種特異的ノンコーディングRNAに着目し、細胞の時空間相互作用を通じてほ乳類脳の形態・機能を大きく変遷させてきた礎を明らかにするものである。本年度はまず、iPS細胞からのDirect neurosphere formation法により神経幹細胞を誘導する系を用いることで、ヒトとチンパンジーの初期神経発生を比較し、ヒト的形質獲得の分子ロジック描出を試みた。取得した時系列トランスクリプトームデータの相関性解析から、ヒトではチンパンジーに比べて神経幹細胞の発生が遺伝子発現レベルで遅れることが認められた。誘導された神経幹細胞の比較から、ヒトではリボソームタンパク質及び抑制性ニューロンの産生に重要な遺伝子が高発現することを見出した。神経幹細胞の機能分化に影響しうる分子を探索したところ、神経管に相当する段階のサンプルにおいて、神経管の腹側因子であるFOXA2がヒトで高発現であることや、ヒト神経幹細胞においてチンパンジーより高発現する遺伝子群において特異的にpromoter associated non-coding RNA(pancRNA)が獲得・発現していることが明らかになった。プロモーターのDNAメチル化情報との統合解析から、pancRNAはエピゲノムレベルでペアとなる遺伝子のプロモーターメチル化レベルの低下と強く相関していたことから、種間で保存された遺伝子領域に加えて、非コード領域の転写産物の獲得がエピゲノム活性化を介して大脳進化に役割を果たしていることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
チンパンジーの神経幹細胞研究は稀有なものであるが、京都大学ヒト行動進化研究センターの今村公紀助教からiPS細胞株を分与いただけたことで、細胞分化に伴うトランスクリプトームの時系列変化を詳らかにでき、本研究の順調な進行が担保できた。その結果として、ヒト神経幹細胞とは明らかに異なる細胞の特徴を詳にできたことで、次年度に行うノンコーディングRNAのシステマティックな機能解析が実現できる運びとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに特定した20の種特異的機能性ncRNAについて、神経幹細胞単層培養系を用いて、発現レベルに応じた発現座位におけるエピゲノム動態の定量化を完成させる。並行して、オルガノイドと臓器における表現型変化を追跡するための研究計画を、以下の2項目に分類する。1)オルガノイドのscRNA-seq等シングルセル解析を強力に推進し、ncRNAを実行部隊とする種特異的エピゲノム形成基盤を構築する(ncRNA機能の定量化)。2)エピゲノムを種分化させうるゲノムエレメントをマウスに賦与する研究を効率的に推進し、各臓器における細胞の振る舞いを定量化する(ncRNA獲得様式の定量化)。小頭症やてんかんの病態発症機序に関連する遺伝子座位に由来する種特異的ncRNAを得ており、これらの機能性を上記に基づいて検定していく。
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