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2022 年度 実績報告書

トランスポゾン抑制と不妊表現型を統一的に説明するエピゲノム機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 22H02547
配分区分補助金
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

岩崎 由香  慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 訪問教授 (80612647)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードエピゲノム制御 / 非コードRNA / トランスポゾン / 不妊 / ゲノム構造 / 転写制御
研究実績の概要

本研究では、トランスポゾンの脱抑制に伴い引き起こされる不妊の表現型を統一的に説明するメカニズムの解明を目指している。本年度は、ショウジョウバエ並びに哺乳類におけるトランスポゾン発現上昇に伴う不妊を対象に解析を進めた。まず、ショウジョウバエに関しては、テロメアを構成するトランスポゾンであるHet-Aの発現脱抑制が不妊の表現型につながることを新たに見出した(Takeuchi et al., 2022)。これは、濾胞細胞におけるHet-A発現上昇が引き起こす排卵不全が不妊の大きな原因となっていることを見出した。その一方でRNA-seq等の解析から、排卵を抑制する明確な原因遺伝子を同定することはできず、Het-Aの発現上昇がなぜ排卵不全につながるかは今後の研究課題である。哺乳類については、2021年にpiRNAの機能不全がマウス以外の哺乳類雌の不妊を引き起こすことを世界に先駆けて報告した(Hasuwa et al., 2021)。一方で、不妊の表現型を引き起こす分子メカニズムの解析は困難である。そこで今年度は、哺乳類におけるpiRNAの制御機構を明らかにするための培養細胞実験系の構築をすすめた。具体的には、非生殖組織由来の培養細胞を用いて、(1)人工的にPIWI-piRNA転写制御マシナリーをレポーター上にリクルートすることで抑制を再構成する実験系を構築した。この実験系を用いることで、トランスポゾン上に構築されるヘテロクロマチン構造の詳細を理解し、ゲノムワイドな解析と併せてトランスポゾンが引き起こすゲノム上の変化の何が不妊の表現型を引き起こすかを明らかにしていきたい。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は、ショウジョウバエのテロメア構成トランスポゾンHet-Aに焦点をあてた解析をすすめた。Mod(mdg4)というインシュレータータンパク質のスパイスバリアントMod(mdg4)-Nが、濾胞細胞において、HeT-Aというショウジョウバエテロメアを構成するレトロトランスポゾンを抑制することを明らかにした。さらに重要なことに、このMod(mdg4)-Nによる制御の機能不全は、不妊の表現型を示すことを明らかにした。Mod(mdg4)-Nの標的トランスポゾンはHet-Aのみであることから、わずか1種類のトランスポゾンの脱抑制が不妊という重大な表現型を引き起こしていると考えられる。その一方でRNA-seq等の解析から、排卵を抑制する明確な原因遺伝子を同定することはできず、Het-Aの発現上昇がなぜ排卵不全につながるかは今後の研究課題である。以上の成果を論文として報告した。
さらに哺乳類に関しては、培養細胞を用いた実験系を構築することでトランスポゾンの脱抑制が引き起こすエピジェネティックな制御の何が不妊につながるかの理解を目指す。哺乳類piRNAによる転写抑制の鍵因子として数年前に報告されたSPOCD1を強制的にレポーター上に渓流する実験系を構築した。この実験系では、レポーター上にpiRNAによる制御を模倣したかたちで転写が抑制されることを観察できている。次年度以降もこの実験系を用いた解析をすすめる。

今後の研究の推進方策

今後は、前年度に引き続き培養細胞系を用いたpiRNAによる制御系を詳細な分子メカニズムにまで踏み込んで解析できる実験系の構築、およびそれを用いた解析をすすめる。前述のとおり、レポーター上にpiRNA経路におけるトランスポゾン転写抑制中核因子であるSPOCD1を渓流することで、piRNAによる制御を模倣したかたちで転写が抑制されることを観察できている。この実験系を用いて、どのような因子が協調して働くことにより転写制御が引き起こされるかをIP-MS解析により同定する。候補因子が同定された際には、それらが果たす機能的な役割を生化学的な実験により明らかにする。さらに候補因子についてノックアウトマウスを作成し、不妊の表現型への寄与を解析すると同時に、エピゲノム解析を用いてゲノムワイドな影響を解明する。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 8件)

  • [雑誌論文] Mod(mdg4) variants repress telomeric retrotransposon HeT-A by blocking subtelomeric enhancers2022

    • 著者名/発表者名
      Takeuchi Chikara、Yokoshi Moe、Kondo Shu、Shibuya Aoi、Saito Kuniaki、Fukaya Takashi、Siomi Haruhiko、Iwasaki Yuka W
    • 雑誌名

      Nucleic Acids Research

      巻: 50 ページ: 11580~11599

    • DOI

      10.1093/nar/gkac1034

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Generation of Stable Drosophila Ovarian Somatic Cell Lines Using the piggyBac System2022

    • 著者名/発表者名
      Takeuchi Chikara、Murano Kensaku、Ishikawa Mitsuru、Okano Hideyuki、Iwasaki Yuka W.
    • 雑誌名

      Methods in Molecular Biology

      巻: 2509 ページ: 143~153

    • DOI

      10.1007/978-1-0716-2380-0_9

  • [学会発表] 小分子 RNA による ヘテロクロマチン形成を介した転写制御2023

    • 著者名/発表者名
      岩崎由香
    • 学会等名
      第3回有性生殖研究会「生殖の多様性」
    • 招待講演
  • [学会発表] Co-transcriptional silencing and heterochromatin formation by nuclear PIWI-piRNA complex2022

    • 著者名/発表者名
      Yuka W. Iwasaki
    • 学会等名
      Cold Spring Harbor Asia "RNA biology meeting"
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Understanding and reconstructing small RNA-mediated heterochromatin formation2022

    • 著者名/発表者名
      岩崎由香
    • 学会等名
      第45回日本分子生物学会年会
    • 招待講演
  • [学会発表] Small RNA mediated co-transcriptional silencing and heterochromatin formation2022

    • 著者名/発表者名
      Yuka W. Iwasaki
    • 学会等名
      32nd Tokyo RNA Club
    • 招待講演
  • [学会発表] Understanding and reconstructing small RNA-mediated heterochromatin formation2022

    • 著者名/発表者名
      Yuka W. Iwasaki
    • 学会等名
      第60回生物物理学会年会
    • 招待講演
  • [学会発表] Understanding and reconstructing small RNA-mediated heterochromatin formation2022

    • 著者名/発表者名
      Yuka W. Iwasaki
    • 学会等名
      RIKEN IMS-McGill Symposium
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Understanding and reconstructing small RNA-mediated heterochromatin formation2022

    • 著者名/発表者名
      Yuka W. Iwasaki
    • 学会等名
      Japan-UK Regulation through Chromatin Conference
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Nuclear architectural changes upon small RNA mediated silencing2022

    • 著者名/発表者名
      Yuka W. Iwasaki
    • 学会等名
      The 10th Keio-Stanford Webinar: Functional Genomics (SLDDDRS Webinar Series)
    • 招待講演

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公開日: 2023-12-25  

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