研究課題/領域番号 |
22H02552
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
椎名 伸之 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 准教授 (30332175)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | RNA顆粒 / 液-液相分離 / 局所的翻訳 / 神経変性疾患 / FUS / TDP-43 / RNG105 |
研究実績の概要 |
今年度は、神経変性疾患ALSやFTLDの原因遺伝子産物であるFUSとTDP-43の疾患変異体が、神経細胞のRNA顆粒の動態や機能に与える影響を解析した。マウス脳由来の初代神経培養細胞に疾患変異型FUS とTDP-43を過剰発現させ、RNA顆粒に蓄積させることで解析を行なった。その結果、RNA顆粒タンパク質のうちRNG105が顆粒から選択的に解離し、これに伴ってmRNAも顆粒から解離することを明らかにした。この解離によって顆粒付近における局所的な翻訳が低下し、シナプスの形成と成熟が損なわれることも明らかになった。これらの影響がRNG105の解離によって仲介される可能性を検討するために、RNG105と他のRNA顆粒タンパク質をドメインスワップすることで、RNG105の非解離型を作製した。これをFUSやTDP-43と共に神経細胞に発現させると、FUSやTDP-43が引き起こす上記の影響を抑圧するという結果が得られた。これは、RNG105の顆粒からの解離がTDP-43やFUSによる異常を仲介することを示唆している。従来は、FUSやTDP-43がRNA顆粒に集積・凝集し、RNA顆粒に局在する分子の流動性を低下させることによって様々な異常を引き起こすと考えられていた。しかし、本研究では、FUSやTDP-43がRNA顆粒内の分子を顆粒から解離させることで異常を引き起こすという、新たな疾患の基盤メカニズムを提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、RNA顆粒の液-液相分離制御に注目し、その機能や病態基盤を解明することを目的としている。具体的な目標のうち、今年度は以下の2点について大きな進展を得ることができた。 1. 疾患変異型FUS とTDP-43の発現により、RNA顆粒の流動性平衡にどのような変化が生じ、局所的翻訳制御にどのような影響を与えるかを解析すること。 2. mRNAの局在や局所的翻訳の時空間制御を蛍光イメージングすることで、RNA顆粒の流動性とmRNAの取り込み、局所的翻訳の関連性を計測すること。 その結果、FUSやTDP-43がRNA顆粒内の分子RNG105を顆粒から解離させることで、mRNA取り込みの低下、局所的翻訳の低下、シナプス形成・成熟の低下という一連の異常を引き起こすことが明らかになり、新たな疾患の基盤メカニズムを示した。以上の点から、本研究は順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究の結果、以下の問題が未解決のまま残されている。1) FUS やTDP-43が、RNG105の顆粒からの解離をどのように引き起こすのか。FUS やTDP-43のRNA結合や特異的なタンパク質間相互作用が、拮抗的にRNG105を解離させる可能性や、RNG105の相分離の平衡状態を崩す可能性、また、変異特異的な作用などが考えられる。2) FUS やTDP-43、RNG105に結合した蛍光タンパク質タグが、相分離や流動性に影響を与え、さらには顆粒へのmRNAの取り込みや局所的翻訳にも影響を与える可能性がある。3) これまでの研究では、神経に過剰発現したRNG105への影響を解析したが、実際の疾患ではFUS やTDP-43の顆粒への過剰な蓄積が内在性RNA顆粒タンパク質に対して与える影響も重要な課題となる。 そこで、今後はそれらの問題点を解明するために、具体的に以下の解析を行うことが考えられる。 1. FUS やTDP-43がRNA顆粒においてRNG105の解離を引き起こすメカニズムを、網羅的なタンパク質ドメイン欠損や野生型タンパク質の影響を調べることで明らかにする。 2. タグなしのFUS, TDP-43, RNG105を神経細胞に発現し、それらのRNA顆粒における局在やmRNAの取り込み、局所的翻訳、シナプス形成・成熟に与える影響を、固定サンプルの蛍光イメージングで調べる。mRNA局在・局所的翻訳の解析には、それぞれMS2法、Sun-Tag法を用いて、一顆粒レベルで定量解析する。 3. FUS やTDP-43のRNA顆粒への過剰集積が、RNG105を含む内在性RNA顆粒タンパク質の顆粒局在に及ぼす影響を、固定サンプルの免疫染色蛍光イメージングで調べる。 以上の解析により、液-液相分離に由来する諸問題の解明や、より生理的な条件下での現象の再現性の解明を目指す。
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